研究課題/領域番号 |
18K06920
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大根田 絹子 東北大学, 東北メディカル・メガバンク機構, 教授 (50323291)
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研究分担者 |
大森 慎也 高崎健康福祉大学, 薬学部, 講師 (10509194)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マスト細胞 / 転写因子 / 遺伝子発現制御 / 高親和性IgE受容体 |
研究実績の概要 |
本研究は、GATA因子(GATA1/GATA2)とPU.1がお互いの発現を抑制する作用が、マスト細胞特異的な遺伝子の発現制御にどのような役割を果たしているのかを解明することを目的とする。平成30年度は、マスト細胞におけるPU.1完全欠失の表現型をSpi1fl/fl::Rosa26-CreERT2マウスから作製した骨髄由来マスト細胞(BMMCs)を用いて解析した。その結果、高親和性IgE受容体(FceRI)の細胞表面での発現強度、FceRIbのmRNA発現量、抗原刺激による脱顆粒反応が低下しており、GATA1とGATA2のmRNA量は中等度に増加していた。一方、GATA因子をノックダウン(KD)したBMMCsやMEDMC-BRC6マスト細胞株(BRC6細胞)でのPU.1mRNA量は、単一のGATA因子をKDしても変化はなく、GATA1とGATA2の双方をKDすると増加した。このように、GATA1/GATA2とPU.1との間には、部分的にお互いの発現を抑制する傾向が観察された。一方、BMMCsやBRC6細胞において、PU.1とGATA2は共にFceRIbをコードするMs4a2遺伝子の発現を正に制御していた。PU.1欠失時にはGATA2の発現が増加するが、Ms4a2遺伝子の発現低下を代償できないことから、両者の分子機能は異なっていると考えられた。そこで令和元年度は、Ms4a2遺伝子の発現制御におけるGATA2とPU.1の協調的な作用についてさらに解析を進めた。その結果、GATA2とPU.1にはそれぞれ独自のDNA結合領域が存在し、異なる役割を果たしていることを示唆する知見を得た。また、両因子が共に結合するMs4a2+10.4kb領域は、Ms4a2遺伝子の発現に必須であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は、GATA因子とPU.1の協調的な遺伝子発現制御機構についてMs4a2遺伝子をモデルとして解析を進めた。公開されているBMMCsでのGATA2とPU.1のChIP-seqデータベースを手がかりに、ChIP解析を行ったところ、GATA2はMs4a2遺伝子の転写開始点(TSS)近くの-60bpと+10.4kb領域に、PU.1は+10.4kb領域と-12kb領域に結合していた。種々の血球系細胞株で同様の解析を行ったところ、GATA2の-60bpへの結合はマスト細胞特異的であったが、それ以外の結合はマスト細胞以外の細胞でも観察された。+10.4kb領域には、クロマチンループ構造の形成に関わることが知られているLdb1も結合しており、Ldb1をKDするとMs4a2の発現量が低下することが確認された。これらのことから、Ldb1もGATA2、PU.1と共にMs4a2の発現制御に関わっていること、+10.4kb領域はGATA2、PU.1、Ldb1の協調的な作用において主要な役割を果たしていることが示唆された。次に、PU.1の役割を明らかにするため、PU.1欠失BMMCsを用いてGATA2とLdb1のDNA結合を解析した。その結果、GATA2の-60bpと+10.4kb領域への結合と、Ldb1の+10.4kb領域への結合がPU.1欠失により低下することがわかった。最後にCRISPR-Cas9法を用いてBRC6細胞で+10.4kb領域を欠失させたところ、ホモ欠失クローンではMs4a2の発現がほぼ消失した。これらの結果から、Ms4a2の発現制御においてGATA2とPU.1は異なる役割を持ち、GATA2はマスト細胞特異的なMs4a2プロモーターの活性化に、PU.1はLdb1と共に活性化クロマチン構造の維持に重要であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析によって、マスト細胞特異的な機能発現に重要であるMs4a2遺伝子が、GATA因子とPU.1によって同じ方向(発現促進)に制御され、両者の作用メカニズムが異なることを示唆する知見を得た。これらの研究成果は論文発表し(Ohmori et al., Mol Cell Biol. 39 doi: 10.1128/MCB.00314-19.)、同誌のSpotlightと表紙に掲載された。本研究でPU.1はクロマチン構造の活性化維持に重要な役割を果たしていることが示唆されたが、その詳細な分子機序は不明であるため、引き続き解析する予定である。研究代表者は2019年9月に東北大学東北メディカル・メガバンク機構に異動した。今後の研究では、ヒトのマスト細胞特異的な遺伝子発現におけるGATA2の役割について研究を展開していきたいと考えている。本研究の最終年度に当たる令和2年度は、マウスBMMCsの解析と併行して、ヒトMs4a2遺伝子領域のヒトとマウスの構造の比較や、GATA2とPU.1の結合配列の分布、クロマチン活性化状態などについてデータベースの解析を行う予定である。最近、ヒトマスト細胞を対象としたクロマチン活性化(Cildir et al., Immunity 51, 2019)とプロテオーム解析(Plum et al., Immunity 52, 2019)の網羅的解析が相次いで報告され、豊富な解析データが公開された。これらのリソースを最大限利用し、GATA2とPU.1を中心に、ヒトのマスト細胞特異的な遺伝子発現制御における転写因子の機能について解析を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者は令和元年9月に所属機関を異動した。令和元年10月から令和2年3月までの期間は、異動直後の公務の引き継ぎに優先的に取り組んだため、実験研究の立ち上げが遅れ、物品費の支出が予定を下回った。研究成果発表の支出は予定通りであった。次年度使用額と翌年度に請求した助成金を合わせた研究費は、異動前に行っていた実験系を異動後の実験室で実施するための物品費、前任地との試料の輸送費、論文校正・出版費として使用する計画である。異動後の実験室は共通機器が揃っているので大型の機器購入は必要ない。
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