研究実績の概要 |
本研究は、GATA因子(GATA1/GATA2)とPU.1がお互いの発現を抑制する作用が、マスト細胞特異的な遺伝子の発現制御にどのような役割を果たしているのかを解明することを目的として行った。始めにPU.1のマスト細胞における標的遺伝子を調べるため、誘導的PU.1ノックアウトマウス(Spi1fl/fl::Rosa26-CreERT2, 以下PU.1 KOマウス)から作製した骨髄由来マスト細胞(BMMCs)を用いて解析した。その結果、高親和性IgE受容体a(FceRIa)の細胞表面での発現強度、FceRIb(遺伝子名Ms4a2)のmRNA発現量、抗原刺激による脱顆粒反応が低下していることを見出した。以前の研究で見出していたように、誘導的GATA2ノックアウトマウス由来のBMMCsでも、FceRIaのフローサイトメトリー(FACS)での発現強度低下とFceRIb mRNA発現量の低下が同程度に観察された。そこで、PU.1とGATA2によるMs4a2遺伝子の発現制御機構の分子機序についてさらに解析を進め、GATA2とPU.1にはそれぞれ独自のDNA結合領域が存在し、異なる役割を果たしていることを示唆する知見を得た。また、両因子が共に結合するMs4a2+10.4kb領域をゲノム編集法で欠失させた細胞では、Ms4a2遺伝子の発現がほぼ消失し、Ms4a2 プロモーター活性が失われていることを見出した。これらの解析から、マスト細胞におけるGATA1/GATA2とPU.1との関係は、造血発生過程で観察されるように相互に発現を抑制し、異なる標的遺伝子群を有するものではなく、Ms4a2のように一部のエンハンサーをシェアしながら協調的な作用を持つと考えられた。
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