研究課題
本研究では、これまでに新規のガス応答性因子として同定した膜タンパク質PGRMC1の構造的機能制御の解明を行った。X線結晶構造解析により、PGRMC1はチロシ ン残基のヘム配位によって、突出したヘム同士が重なり合った特異な重合体構造を形成することを見出し、生体内ガスCOがこの重合が解離してPGRMC1の機能を阻 害することを見出した。PGRMC1はがん細胞内のヘム濃度に応答して重合化することにより活性化し、がん増殖に関わるEGFRや薬物代謝酵素シトクロームP450 (CYP3A4)などと会合してがん増殖シグナルを増強し薬剤耐性を亢進するという、ダイナミックな構造変換によって機能することを明らかとしている(Nature Commun 2017、Pharmocol Res 2018)。これらの知見は、PGRMC1を標的とした新たな抗癌治療薬の創出に繋がる可能性が考えられ、PGRMC1を指標としたケミカル スクリーニングを進め、いくつかの天然由来の有機化合物がPGRMC1のヘムダイマー構造を特異的に認識して結合することを見出している。今年度の成果としては、これらのPGRMC1を標的と した候補化合物について、抗腫瘍活性の検証を細胞レベルおよびマウス癌移植モデルを用いた解析を行い、顕著な抗腫瘍効果を示す化合物をいくつか見出し、より作用の強い化合物の選定に進んでいる。さらに、PGRMC1が脂質の代謝や取り込みにも効果を示すことを見出しており、薬剤がこのような作用を抑制することも見出している。今後、PGRMC1の癌増殖作用を指標とした抗癌治療薬の開発を目指すとともに、PGRMC1が示す脂質代謝活性化機能を指標とした新たな創薬展開についても目指して行きたい。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では天然有機化合物ライブラリーを用いたスクリーニングによりPGRMC1に結合する薬剤についていくつか候補化合物を見出すとともに、これらの化合物に顕著な抗癌活性を示すことも見出している。構造活性相関の解析から、さらに作用の強い化合物の選定に進んでいる。また、PGRMC1の機能解析を進めることにより、PGRMC1が脂肪酸合成および脂質の細胞取り込みを増強するという新たな生理機能を見出すことが出来た。
上記のように、PGRMC1に結合するいくつか候補化合物の選定に成功しており、これらがPGRMC1を介した癌増殖作用を阻害して抗腫瘍活性を示すことを明らかとしている。これまでにPGRMC1はEGFRシグナルを増強することにより癌増殖および薬剤耐性作用を示すことを見出しているが、これらの候補化合物がこのような機能に影響を示すか検討を行い、薬剤の作用メカニズムを解明する。また、PGRMC1の新たな機能として脂質の代謝や取り込みの促進効果を見出している。これはリポタンパクであるLDL受容体の機能を制御することにより、細胞内への脂質の取り込みに寄与することを見出しており、今後はこれらの候補化合物における脂質代謝に関わる作用を検証するとともに、脂質取り込みを介した癌増殖への効果および肥満モデルなどのメタボリックシンドロームへの作用を検証することにより、独自のPGRMC1の構造情報を基盤とした化合物の選定を進めて行きたい。またこれらの候補化合物の抗腫瘍効果について、PGRMC1を指標とした作用を介した、癌種特異的な作用について検証を進めて行きたいと考えている。
当該年度はすでに収集を行っていた候補薬剤の解析を行い、細胞モデルおよび動物モデルについては既に構築した実験系により評価を行ったため、さらなる創薬合成展開や新たな評価系構築のための予算を次年度に繰り越した
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