研究課題
近年の網羅的解析技術の発達に伴い、T細胞分化に伴って代謝のパターンが大きく変化することが明らかとなっている。しかし、これらの研究は次世代シークエンサーによる遺伝子発現解析や、水溶性代謝物を対象にしたメタボロミクス解析が中心で、T細胞分化における脂質の網羅的解析はほとんど行われていない。当研究室で、広範囲の脂質を解析するためのリピドミクス定量系を立ち上げたことで、T細胞が分化に伴って想像以上に脂質組成を変化させていることを見いだした。そこで、平成30年度は脂質組成を変化させている要因と考えられる5遺伝子をRNAseqのデータから絞り込んだ。1つめの遺伝子は、Lipidosinと呼ばれる長鎖脂肪酸の細胞内取り込みに関わる酵素をコードしているAcsbg1遺伝子である。本遺伝子は、ナイーブCD4陽性T細胞からTh17細胞やiTreg細胞に分化する過程で発現が上昇したが、Th1細胞やTh2 細胞の分化では発現誘導されなかった。Acsbg1-KOマウスの凍結精子を理化学研究所から購入し個体化をおこなった。Acsbg1-KOマウス脾臓よりナイーブCD4陽性T細胞を採取し、in vitroで分化培養を行ったところTh17やiTregへの分化や増殖に異常は認められなかったが、特定の長鎖脂肪酸の組成が変化していたことから、特定の脂肪酸の取り込みに関与している可能性が考えられた。今後詳細に調べて行く予定である。また、その他の4遺伝子については、CRISPR-Cas9システムを用いて遺伝子欠損マウスの作製を行った。4遺伝子は全て、フレームシフトを起こした個体が得られた。今後交配を行って遺伝子欠損マウスを作製し、CD4陽性細胞の分化における役割を解析する予定である。
2: おおむね順調に進展している
H30年度は、本大学マウス施設の改修工事に伴う振動などから、マウス卵へのインジェクションが思う様に進まない部分もあったが、耐震台を導入することでその後は順調に進めることができた。結果、新たに4種類の遺伝子欠損マウス候補を得ることができ、H31年度に本格的なT細胞の解析を行う為の準備が整えられた。また、それらに先立ってAcsbg1-KOマウスを当大学施設に立ち上げた。Acsbg1-KO マウスは期待していた様なT細胞の分化異常は示さなかったものの、これまで知られていなかった特定の脂肪酸の取り込みに関与している可能性が見いだされた。今後生理的な意義を明らかにしたいと考えている。
1)中性脂質の蓄積がTh1細胞の分化や生存に及ぼす影響:ナイーブCD4陽性T細胞からTh1細胞を分化する過程で、中性脂質トリアシルグリセロール(TAG)が蓄積すること、TAG合成酵素(DGAT1)の発現がTh1分化に伴い大きく上昇することを見いだしている。H30年度に作製したDGAT1欠損マウスのT細胞を用いて、TAGの蓄積におけるDGAT1の役割を明らかにするとともに、DGAT1欠損がTh1細胞への分化に与える影響を調べる。更に、TAGが飢餓時のエネルギー源となる可能性を想定し、Th1細胞を低グルコース培養に切り換えた時の細胞の生存率についても調べる。2)長鎖脂肪酸やグリセロールの細胞内取り込みがTh17細胞やiTreg細胞の分化や機能に及ぼす影響:H30年度に作製および導入した長鎖脂肪酸の細胞内取り込みに関わる酵素(FATPs, Acsbg1)およびグリセロール輸送体(AQP)の遺伝子欠損マウスを用いて、13Cラベルした脂肪酸やグリセロールのT細胞内への取り込みの比較を行うとともに、取り込まれた物質の利用先(膜リン脂質やエネルギーとしての利用など)を明らかにする。また、T細胞の in vitro分化実験を行い、これらの遺伝子欠損がTh17細胞およびiTreg細胞の分化に与える影響を調べる。3)膜脂質に含まれる脂肪酸の飽和度の違いがTCR応答やT細胞の分化に与える影響:脂肪酸を不飽和化する酵素(FADS2)の欠損マウスのT細胞をin vitroにて分化し、膜脂質組成の比較および分化に与える影響を調べる。また、脂肪酸ライブラリーを利用し、各種脂肪酸の添加による膜脂質組成の変化を調べ、膜脂質組成の変化が分化に与える影響を明らかにする。更に、膜脂質に含まれる脂肪酸の飽和度の変化が、TCR刺激時のシグナル分子のラフトへの集積やシグナル分子のリン酸化に与える影響を明らかにする。
消耗品の一部(細胞培養用試薬)を次年度に購入することとなった為
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