研究課題/領域番号 |
18K06923
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
佐伯 和子 順天堂大学, 医学部, 准教授 (00553273)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | CD4陽性T細胞 / ヘルパーT細胞 / 膜脂質 |
研究実績の概要 |
近年の網羅的解析技術の発達に伴い、T細胞分化に伴って代謝のパターンが大きく変化することが明らかとなっている。申請者はこれまでに、リピドミクス定量系を用いて、ナイーブCD4陽性T細胞がTh1・Th2・Th17・iTregへと分化する過程で、どの方向に分化するかによって細胞膜脂質の組成やエネルギー脂質の組成や量が大きく変化することを見いだしている。さらに、次世代シークエンサーを用いた遺伝子発現解析から、この変化を引き起こしている要因と考えられる遺伝子を5つ選定した。昨年度、CRISPR-Cas9システムを用いて遺伝子欠損マウスの作製に成功したため、本年度は、これらのマウスの脾臓よりナイーブCD4陽性T細胞を単離し、in vitroにてヘルパーT細胞の分化実験を行った。その結果、単独の遺伝子欠損では、分化や増殖に大きな差を呈さないことが明らかとなった。また、SPF飼育下のナイーブマウスを用いて、全身のリンパ組織に存在する各種リンパ球の分布を調べたが、野性型との差は認められなかった。一方、特異的阻害剤を用いたin vitroでのヘルパーT細胞分化実験では、明らかな分化異常が観察されている。これらのことから、遺伝子欠損マウスでは同じ機能をもつ他の遺伝子によって機能が代償されている可能性が考えられる。今後、二重欠損マウスの作製を視野に入れるとともに、各種病態モデルを施行し、病態下において差が顕著化しないか検討する予定である。また、脂肪酸を不飽和化する酵素(FADS2)の欠損マウスに高度不飽和脂肪酸を含まない食餌を摂取させると、炎症が亢進することを確認しており、膜脂質に含まれる脂肪酸の飽和度がT細胞の活性化に与える影響について明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RNAseqより選定した5つの遺伝子の欠損マウスの作製・導入を完了し、ナイーブCD4陽性T細胞を用いたin vitroのヘルパーT細胞分化実験を行った。また、SPF飼育下のナイーブマウスを用いて、全身のリンパ組織に存在する各種リンパ球の分布も確認した。さらに、それらと並行して、阻害剤を用いたin vitroのヘルパーT細胞分化実験も行った。現在、いくつかの病態モデルを作成中であり、今後、病態下での機能を明らかにしていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現在着目している遺伝子は、ある特定のヘルパーT細胞に分化した時のみ発現上昇が観察される遺伝子である。それぞれの遺伝子欠損で変化が期待される病態モデルを施行する。現在作成中のモデルは、接触性皮膚炎モデル(Th1病態モデル)、乾癬モデル(Th17病態モデル)、多発性硬化症モデル(EAE, Th17病態モデル)である。また、現在作製している遺伝子欠損マウスのうち3つは、機能を相補する可能性が考えられる。それらの遺伝子は別々の染色体上に存在することから、交配により二重欠損マウスの作製も検討する。また、膜脂質に含まれる脂肪酸の飽和度の違いがTCR応答やT細胞の分化に与える影響を明らかにする目的で、脂肪酸を不飽和化する酵素(FADS2)の欠損マウスからナイーブCD4陽性T細胞を採取し、in vitroにて分化誘導する。更に、膜脂質に含まれる脂肪酸の飽和度の変化が、TCR刺激時のシグナル分子のラフトへの集積やシグナル分子のリン酸化に与える影響を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
作製した遺伝子改変マウスを最終年度に凍結胚の形で保存するため、その予算分を繰り越すことにした。
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