研究課題
これまでに、質量分析計を用いた脂質の一斉測定系で、ナイーブD4陽性T細胞が分化する過程で、膜脂質や貯蔵脂質の組成を大きく変化させることを明らかにした。また、脂質組成を変化させている要因と考えられる5遺伝子をRNAseqのデータから絞り込み、遺伝子欠損マウスの作製を行った。これらの遺伝子欠損マウスの脾臓よりナイーブD4陽性T細胞を単離し、ヘルパーT細胞の分化実験を行ったが、単独の遺伝子欠損では分化や増殖に大きな差を呈さないことが明らかとなった。また、SPF飼育下のナイーブマウスを用いて、全身のリンパ組織に存在するリンパ球の分布を調べたが、野性型との差は認められなかった。そこで、接触性皮膚炎モデル(Th1病態モデル)・乾癬モデル(Th17病態モデル)・多発性硬化症モデル(EAE, Th17病態モデル)を作成し、これらの遺伝子欠損マウスのヘルパーT細胞の機能を評価した。接触性皮膚炎モデルおよび乾癬モデルでは野性型マウスと比較して有意な表現型の差を示すマウスはいなかったが、多発性硬化症モデルにおいて発症の遅延と症状の軽減を示すマウスがいたため、引き続き解析を行っている。また、5遺伝子の中には脂質輸送に関与する遺伝子が3つ存在しており、機能を相補している可能性がある。現在、交配による二重欠損マウスの作製を行っている。また、当研究室では脂肪酸の不飽和化酵素の遺伝子欠損マウスを保有している。このマウスに高度不飽和脂肪酸の少ない餌を摂取させると、膜脂質の不飽和度が低下することを確認した。このマウスの脾臓からナイーブT細胞を単離し、T細胞受容体の刺激に対する応答性の違いを細胞内シグナル分子のリン酸化で評価した。飽和度の高い膜脂質で構成される脂質ラフトがT細胞受容体の活性化に必要であるという報告があるため、食の脂質の質がT細胞の活性化に与える影響について明らかにしていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
計画していた5つの遺伝子欠損マウスの作製・導入が完了し、in vitroで各種ヘルパーT細胞への分化や増殖に与える影響について評価した。また、ナイーブマウスにおけるリンパ球の分布を評価するとともに、ヘルパーT細胞の関与するマウス疾患モデルを作成して炎症を引き起こした時の表現型の違いについて評価した。さらに、膜脂質の不飽和度の違いがT細胞の活性化にどのような影響を与えるかについても解析が進行している。以上より予定していた実験計画はおおむね順調に進んでいると判断した。
多発性硬化症モデルにおいて発症の遅延を認めた遺伝子欠損マウスについては、骨髄移植実験を予定しており、今後ヘルパーT細胞における遺伝子の欠損が表現型の違いに関与しているのかを明らかにしていく予定である。また、脂質輸送に関わる3つの遺伝子欠損マウスについては、お互いに機能を補完し合っている可能性があるため、交配による多重欠損マウスの作製を進めるとともに、阻害剤を組み合わせた解析も行っていく予定である。
脂質輸送に関わる遺伝子欠損マウスについては、単独の遺伝子欠損では表現型の違いが観察できなかった。これは、お互いに機能を補完し合っている可能性が考えられ、当初計画していなかった多重欠損マウスを作成することとなったため。
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