研究課題
本研究では癌関連糖脂質(GD3、GD2)と、主に正常細胞に発現する糖脂質(GM3、GM2、GM1)の機能的差異を検討し、癌細胞の接着、移動、浸潤・転移及びエクソソームにおける癌関連糖鎖の役割と作用機構を解明する。これまでに、酸性糖脂質のGM3のみを有するヒトメラノーマ細胞株SK-MEL-28由来N1細胞に各種の糖鎖合成酵素遺伝子を導入して作製したGD3(+)細胞、GM2(+)細胞、GM1(+)細胞、GD2(+)細胞を用い、それらのシグナル分子の活性化を比較検討した。また、蛍光ラベルGD3(ATTO594-GD3)、GM3(ATTO594-GM3)及び、GM1(ATTO594-GM1)をコントロール細胞に取り込ませ、タイムラプス観察を行なった。その結果、移動が顕著な細胞のリーディングエッジにGD3が集合し、GD3が細胞の移動方向を先導することが示唆された。GM3及びGM1では、GD3のような顕著な局在は認められなかった。エクソソームの単離と解析については、細胞培養条件を検討した上でGD3及びGD2の発現パターンが異なる4種のヒトメラノーマ細胞株から超遠心法によりエクソソームを調製した。エクソソームのquality は、タンパク質濃度、Western blottingによるエクソソームのマーカータンパク(CD63, TSG101)の検出、及びNano Sightによる粒子径の測定により検討した。エクソソーム表面のGD3, GD2及CD63の検出は、Tim4-beadsを用いたフローサイトメトリーにより行なった。現在、上記の糖鎖合成酵素遺伝子導入細胞についてもエクソソームの単離と解析を進めている。今後、エクソソームの組成解析及び生物活性について検討する。
3: やや遅れている
エクソソームの単離と解析については、超遠心法によりヒトメラノーマ細胞株のエクソソームが単離でき、エクソソームのマーカータンパク質(CD63, TSG101)が検出できた。Nano Sightによるこれらの粒子径は約150nmであった。また、Tim4-beadsを用いたフローサイトメトリーによりエクソソーム表面のGD3及びGD2も検出でき、今後、エクソソームの組成解析及び生物活性について検討する。一方、タイムラプス観察による蛍光ラベル糖脂質の生細胞膜局在の解析については、GD3に加えて、GM3及びGM1についても解析しているが、計画よりやや遅れている。
①各種のメラノーマ細胞株、及び糖鎖改変細胞由来のエクソソームに含まれる糖脂質および各種分子について、Tim4-beadsによるFACS、TLC、Western blots及び質量分析等により解析し、比較検討する。また、エクソソームの生物学的機能についても検討する。②SK-MEL-28 N1細胞のコントロール細胞に蛍光ラベルGD3(ATTO594-GD3)を取り込ませ、タイムラプスイメージングにより、CL-I上の細胞動態とGD3の細胞膜上の経時的局在変化を観察する。蛍光ラベルGM3及びGM1についても同様に解析し、比較検討する。また、蛍光強度の定量法を検討する。③CL-Iディッシュに細胞をまき、GD3やGD2などの酸性糖脂質、インテグリン、FAK、paxillin及びF-アクチンを免疫染色後、共焦点レーザー顕微鏡による三次元イメージングを行い、糖脂質と各種分子の局在を検討する。
(理由)2019年度は、エクソソームの単離、解析が計画通りに進み、消耗品の支出が予定よりも少額となった。また、新型コロナウィルスの影響で流通が遅れ、購入が困難な試薬などもあり、支出が抑えられた。(使用計画)(1)エクソソームを解析するために、細胞培養試薬、各種抗体、Tim4ビーズなどを購入する。(2)酸性糖脂質と細胞膜分子との相互作用を解析するために、各種の抗体を購入する。
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