研究課題/領域番号 |
18K06927
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
後藤 英仁 三重大学, 医学系研究科, 特任准教授(研究担当) (20393126)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | チェックポイントキナーゼ1 / 細胞生存 / 細胞周期 / チェックポイント |
研究実績の概要 |
チェックポイントキナーゼ1(Chk1)は、DNA損傷時や複製障害時にATRの下流で活性化するトランスデューサー分子である。このようなDNA損傷応答時には、Chk1はCdc25Aをリン酸化することが知られている。このCdc25Aのリン酸化修飾を契機にCdc25Aはポリユビキチン化され、最終的には、20Sプロテアソームで分解される。Cdc25Aはサイクリン依存性キナーゼの活性化に必須の分子であるため、Chk1によるCdc25Aの分解誘導は最終的には細胞周期の停止を導く(細胞周期チェックポイント)。この間に、損傷DNAは修復される。 他方、Chk1は、(外的DNA損傷刺激のない)正常な細胞周期進行にも深く関わっており、この際のChk1機能が障害されると細胞は死に至る。しかし、その詳細な分子機構は不明である。 研究代表者らは、これまでに、内在性Chk1タンパク質にauxin依存性分解デグロン(mAID)と標識タグを付加した細胞株の樹立に成功した。この細胞にauxinを反応させると、内在性Chk1を特異的かつ即効性に分解できる。本年度、この細胞株を用いて、主に、Chk1の特異的かつ急速な分解後に引き起こされる反応を解析し、基本的には、DNA障害チェックポイントの際と同様な下流シグナル経路を介して、(外的DNA損傷のない)通常の細胞周期進行(細胞の生存)の際にもChk1が機能していることを解明した。今後、Chk1の新規基質およびそのリン酸化部位を同定するとともに、Chk1がどの細胞周期に機能していくかを解明していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度、Chk1の遺伝子座のC末端にmAIDタグを導入したHCT116細胞株を用いて、急速なChk1分解後に認められる細胞の反応を観察した。その結果、過去の報告通り、Chk1分解後にDNA損傷が引き起こされた。しかし、このDNA損傷が引き起こされる前に(DNA損傷応答における代表的基質である)Cdc25Aの分解が(Chk1のリン酸化修飾の低下により)抑制され、Cdc25Aが安定化することが判明した。そのため、Chk1のCdc25Aのリン酸化修飾およびそれに引き続く分解が細胞の生存を制御している可能性を考え、Chk1およびCdc25A遺伝子座のC末端にmAIDタグを導入した2重株(HCT116細胞)を新たに作製した。この2重株を用いて、Chk1の分解による表現型の一部は、Cdc25Aを共に分解することで緩和されることを明らかにした。以上の結果は、(外的DNA損傷のない)通常の細胞周期進行においても、(DNA損傷応答と同様に)Chk1はCdc25Aを常にリン酸化し分解することが細胞の生存に重要な役割を果たしていることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
我々の研究により、Chk1の下流シグナルはDNA損傷応答時も(外的DNA損傷のない)通常の細胞周期進行の際にも基本的には大きく変わらないことが判明した(ただし、上流シグナルは上記の二つで若干異なることが他のグループから昨年報告された)。今後、二つの観点から、研究を推進する。1)Chk1の機能障害は細胞周期のどの時期の障害につながるのかを解明していく。2)この誘導性Chk1分解細胞株を用いて、新たな基質の検索を行う。この際、我々が得た上記の知見からDNA損傷応答と基本的にシグナルが異ならないため、(リン酸化反応が最大になる)DNA損傷応答後のリン酸化量の変化を質量分析を用いて、明らかにしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、DNA損傷応答時と(外的DNA損傷刺激のない)通常の細胞周期進行において、下流の基質が異なる可能性を想定していた。しかし、得られた結果はこの想定とは逆に大きな変化はないことが判明した。そのため、(外的DNA損傷刺激のない)通常の細胞周期進行における基質を同定するという当初の目的は想定以上に達成したと言っても過言ではない。この結果を受け、Chk1の新規の基質を探索するという方向に研究を進めることにした。しかし、準備がまだ整っておらず、当初、外注で想定した基質の網羅解析のための質量分析をまだ行えていない。本年度予定していた(Chk1の新規基質探索のための)質量分析解析を来年度以降に行う。
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