研究課題/領域番号 |
18K06928
|
研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
青木 耕史 福井大学, 学術研究院医学系部門, 教授 (40402862)
|
研究分担者 |
堀 一也 福井大学, 学術研究院医学系部門, 助教 (50749059)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 炎症性腸疾患 / クローン病 |
研究実績の概要 |
クローン病や潰瘍性大腸炎に代表される炎症性腸疾患は、遺伝的素因に環境因子が加わることなどにより生じる難治性の慢性炎症性疾患である。また、主に内科的治療が施されるが、根本的治療法が未確立となっており、より良い治療薬の開発が急務となっている。しかし、本疾患の発症メカニズムについて解明されている機序は少なく、病因の解明が大きな課題となっている。本研究課題では、腸管上皮細胞に特異的に発現するホメオボックス転写因子CDX2が、腸管上皮細胞の機能制御を介して腸管の粘膜免疫をコントロールする発見を基に、新たに確立した炎症性腸疾患モデルマウスを用いて、腸管上皮細胞による新たな粘膜免疫防御の制御基盤の解明として研究を進めている。 Cdx2遺伝子変異マウスに、DSSを投与して炎症を誘発させたが、野生型と比べて特に顕著な差は生じかなった。一方で、細菌感染により腸炎を誘発したところ、Cdx2変異マウスでは、腸炎の誘発が増悪することが分かった。この結果は、病理学的な解析などもからも確認できた。これらの結果から、固体レベルにおいてCdx2が、細菌感染などにより誘発される腸炎の発症を抑制していることが遺伝学的に明らかになった。 また、Cdx2やCdx1/Cdx2変異マウスの腸からオルガノイド細胞を作成して、解析を行ったところ、Cdx1やCdx2の遺伝子変異によりオートファジーが抑制されることが分かった。加えて、CDX2とATG7の双方に結合する分子を同定した。今後、これらの結合分子の機能解析を進めることで、CDX2によるオートファジーの活性化機構を解明する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
〈CDX2による腸管の粘膜防御機能の個体レベルの解析〉 DSS腸炎を誘発するために、野生型マウス、Cdx2欠損マウス、およびCdx1/Cdx2欠損マウス(Cdx1はCdx2の機能を補償するため)をDSS(dextran sodium sulfate)を投与した。野生型マウスと比べてCdx2欠損マウスに発症する腸炎について顕著な違いは見られなかった。そこで、細菌性腸炎を誘発するために野生型マウス,Cdx2欠損マウス、およびCdx1/Cdx2欠損マウスに、赤痢菌S. flexneri、C. rodentium、EHEC EDL933、EHEC 86-24を感染させる実験を行った。赤痢菌は、マウスへの感染効率が悪く炎症は誘発されなかった。C. rodentium、EHEC EDL933、EHEC 86-24はCdx2欠損マウスに感染し、炎症を誘発することがわかった。また、感染した細菌数を正確に決定するために、常在細菌と区別する必要がある。そこで、上記の細菌を、アンピシリンなどの薬剤に耐性して、感染実験を再度行った。その結果、Cdx2およびCdx1/Cdx2欠損マウスでは、上記の細菌感染により衰弱(体重減少など)が早く、Cdx2を欠損すると、細菌感染への感受性が上昇することがわかった。組織学的解析からも、より炎症が増悪していることなどが分かった。 〈CDX2によるオートファジー活性化機構の解析〉 CDX2複合体に結合する分子の質量分析の解析から、3個のオートファジー関与分子を同定した。また、そらの分子の遺伝子クローニングを行いタグを融合させた後、細胞に強制発現することで、CDX2やATG7と複合体を形成することを免疫沈降実験により確認した。
|
今後の研究の推進方策 |
〈CDX2による腸管の粘膜防御機能の個体レベルの解析〉 2019度の結果を統計的なデータとするために、一群10匹程度の野生型マウス、Cdx2欠損マウス、およびCdx1/Cdx2欠損マウスにC. rodentium、EHEC EDL933、EHEC 86-24を感染させて、①腸管上皮細胞内の細菌数の解析、②LC3B-II発現量の定量、③炎症度の病理組織学的評価を再度行う。 〈CDX2によるオートファジー活性化機構の解析〉 同定したCDX2結合分子の性質から、そらの結合分子は、CDX2やATG7の細胞内局在を制御していると考えている。まず、同定した分子をテトラサイクリン誘導性に発現する細胞を作成する。作成した細胞を用いて、それらの分子の発現を誘導し、まずは、オートファジーの活性などを解析する。さらに、CDX2, ATG7の細胞内局在などを共焦点顕微鏡などを用いて解析する。また、得られる結果により分子機構の解析をさらに進める。
|