研究課題/領域番号 |
18K06932
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
栗栖 修作 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 助教 (40525531)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ゲノム編集 / CRISPR/Cas9 / Vinculin / ノックイン / メカノセンシング / 細胞間接着 |
研究実績の概要 |
上皮細胞の機械刺激への応答性(メカノセンシング)の分子メカニズムを解明するためには、そこで働く様々な分子の量的動態を知ることが一つの有力な方法となる。しかし、内在性のタンパク質の「量」を知る手段は現在のところ確立されていない。本研究ではゲノム編集技術を用いて内在性のタンパク質に蛍光タンパク質タグを付加し、その蛍光強度を比較することで種々のタンパク質の相対量を決定することを当面の目標とした。さらにその技術を用いて量的側面から上皮メカノセンシングの新たな動作原理を解明することを目指している。 2019年度の主な目標はメカノセンシングに関わる種々の遺伝子に対してGFP(緑色蛍光タンパク質)やRFP(赤色蛍光タンパク質)のノックイン株を樹立し、蛍光強度を用いて具体的な定量スキームを確立することであった。昨年度に既に樹立した細胞株を含め、本年度までにE-cadherinをはじめとした7つの遺伝子のGFPノックイン株と、その内3遺伝子に対してはRFPノックイン株も得ることができた。これらについてはゲノム配列のキャラクタライズも完了している。ホルムアルデヒド固定の影響や顕微鏡観察空間における蛍光ぼけなど補正することで、固定した上皮細胞に対してはpunctate adherens junction (pAJ)に存在する上記遺伝子の存在量比を高い信頼性で定量することが可能になった。それによってpAJにおいてVinculinやZO1/2タンパク質のユニークな分布も明らかになってきており、これまで知られていなかった上皮メカノセンシングの新たな分子機構を提唱できると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
固定サンプルについては、本年度の目標であったタンパク質定量法を確立することができた。特に昨年度から問題となっていた、サンプルのホルムアルデヒド固定による蛍光変化や、観察空間の設定、バックグラウンド蛍光など、測定の不確かさや誤差を生じうる要因について定量的に補正を加えることでより正確なタンパク量の比較が可能になった。一方で精製組み換えタンパク質を利用してタンパク質の絶対量を推定することについては、ノックイン細胞株の取得等に手間取ったため未だ着手できておらず、次年度の課題として残される。 pAJでは小さな接着点に対して隣り合う細胞同士がアクチン細胞骨格を介して互いに引っ張り合うため、比較的強い張力が働く。すなわち、上皮メカノセンシングが比較的容易に観察できる細胞構造と言える。本年度は固定サンプルだけなく定量的ライブイメージングに着手し、pAJの形成・崩壊過程におけるタンパク質定量法の検討も行ってきた。alpha-Catenin遺伝子にRFPをノックインした細胞株と種々のGFPノックイン株を混合培養し、RFPの蛍光を指標としてpAJの検出・観察領域の決定を行い、GFPの蛍光量からpAJに存在するタンパク量の定量を行った。まだ準備段階ではあるが、この手法によりpAJにおけるタンパク質量の経時的変化を追跡できる手応えは得ることができた。次年度は、定量時の誤差要因の見積もりや必要であれば補正を行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
pAJのライブイメージングから得られたデータの解析が中心となる。alpha-Catenin-RFPの蛍光シグナルからpAJの領域を決定するが、それが真にpAJの存在を反映するかどうか評価する必要がある。またpAJは平面的構造ではあるが、厚みのある構造であるためz軸方向の動きが定量に与える影響を考えなければならない。alpha-Catenin-RFPとalpha-Catenin-GFPの蛍光値が比例関係にあることを確認した上で、その他のGFPノックイン株(予定ではE-cadherin, Vinculin, ZO-1/2, alpha-actinin-1/4)についても順次定量を進めていく。ライブイメージングからのデータはpAJの成熟過程を見ることができ、複数のタンパク質を定量的に解析した例はこれまでになく学術的に大変興味深いものになるだろう。 また、最終年度であるため前期には必要なデータを揃え、後期の早いうちに国際誌への論文投稿を行い年度内に論文発表ができるよう着実に準備を進めていく。同時に、国内・国際学会での発表も積極的に行い研究成果の周知を図っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であったライブイメージング用の顕微鏡インキュベーションチャンバーを購入しなかったため次年度使用額が生じた。このインキュベーションチャンバーは本年度から学内の共用機器として使用可能になったため本研究プロジェクトでの購入の必要がなくなった。次年度請求額と合わせて共通機器使用料と、本年度に遂行できなかったタンパク質の生化学的な定量実験に必要な試薬類の購入に使用する予定である。
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