研究実績の概要 |
上皮細胞に備わった機械刺激を細胞内のシグナルへと変換する能力は、上皮の恒常性や動的機能を維持する上で必要不可欠である。しかし、その分子メカニズムは未だ明らかでない。本研究では機械刺激応答時に上皮細胞間接着に集まるタンパク質群の相対量を決定し、そのメカニズムの解明を目指した。まず、CRISPR/Cas9によるノックイン法により上皮細胞の内在性のタンパク質に蛍光タンパク質タグを付け、その蛍光シグナルにより細胞内局所におけるタンパク質の存在量を比較する手法を開発した。これにより最終年度前までに機械刺激応答に関わる5遺伝子(CDH1, CTNNA1, TJP1, TJP2, ACTN4)の存在比を決定していたが、目的とした他の遺伝子VCL, ACTN1については不適切なノックインであることが判明し、正しい値が得られていなかった。最終年度では改めてVCL, ACTN1遺伝子座に対して蛍光タンパク質のノックイン株を作製し、正しい定量値を求めた。またCDH1, CTNNA1, TJP1, VCLについては動画での解析も行い、未だ信頼性は低いものの機械応答刺激に対するタンパク質量の経時的変化を大まかに見積もることができるようになった。タンパク質の量的変動から機械刺激応答の反応機構を解明するとした当初の目標は、現段階の動画での測定値の信頼性に問題があることから十分達成できたとは言い難い。しかし、このように多くのタンパク質について存在量を明らかにできたことは世界的に見て初めてのことであり、例えばアクチン結合能を有するTJP1とACTN1/4の合計量はカドヘリン複合体に対して同程度の存在量があることが判明した。本研究を基にして機械応答の前後でどのような変化があるかを解明することが今後の課題であり、さらなる研究が必要である。上記研究成果は国際誌への掲載を目指し、投稿論文の作製中である。
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