研究実績の概要 |
我々はラット大腿神経を用いた解析で、α-synuclein (αSyn)が13本のプロットフィラメント(protofilaments: pfs) で構成された従来の微小管骨格とは異なる14-pfsで形成された可動性微小管を形成することを発見し、神経軸索輸送時“荷台”として機能することを報告した。また、イヌ、ブタとヒトの坐骨神経を用いて構造解析を行ったところ、14-pfsの微小管以外にも特異なフック構造を持つものが確認され、高度な神経機能をもつ大型哺乳類になるにつれて増加する傾向を見せていた。これらの結果は、従来の微小管とは異なる構造を取っているunconventional微小管が哺乳類の高度な神経機能の維持に重要であることを示唆している。そこで、ブタ脳抽出液から微小管結合タンパク質を精製し、LC-MS/MS解析でフック構造の形成に関わる有力な候補としてTau, TPPP1, CRMP2とMAP1のLC2を同定した。これらの微小管結合タンパク質とαSynを用いてin vitro再構築実験を行い、unconventional微小管を重合させるかどうかを電子顕微鏡で解析を行った。また、マウス脳抽出液とヒト脳腫瘍組織の抽出液から微小管結合タンパク質を精製、2次元電気泳動で移動パターンを解析し、ヒト中枢神経系に特異的に発現している微小管結合タンパク質を同定するためLC-MS/MSで解析を行っている。我々は、哺乳類の神経組織におけるunconventional微小管の形成機構と神経の軸索輸送における生理的な役割を明らかにし、神経軸索輸送異常により発症する神経変性疾患の原因究明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来の神経細胞における微小管構造は13のプロトフィラメント(13-pfs)を持つ単純な微小管構造が想定されていた。我々は家族性パーキンソン病の原因遺伝子であるα-synuclein (αSyn)が結14-pfsを持つ微小管の形成に関わり、機能的にも細胞骨格とは異なる細胞内物質輸送に必要な荷台として機能する可動性微小管であることを報告した。Unconventional微小管がどのような生理的機能を発揮するかについて明らかにするために、まずはブタ脳抽出液から微小管結合タンパク質を精製し、unconventional微小管形成に関わる因子を同定した。具体的には、ブタ脳抽出液で微小管重合の際に微小管結合タンパク質も一緒に共沈させ、質量分析を行なった。Unconventional微小管を形成する候補タンパク質としてTPPP, Tau, MAP1 LC2, CRIMP2を同定することができた。次に、これらのタンパク質とαSynを用いてin vitroでの微小管重合実験を行い、溶液濁度の変化からチューブリンの重合に与える影響を解析した結果、αSyn と同様にTPPP, Tau, MAP1 LC2, CRIMP2がチューブリンの重合を促進する効果を示した。さらに、ヒト脳腫瘍組織の抽出物から微小管結合タンパク質を精製し、2次元電気泳動を行い、ヒト中枢神経系に特異的に発現する微小管結合タンパク質を同定しているところである。同定された候補タンパク質を様々に組み合わせて微小管重合実験を行い微小管結合タンパク質同士の相互作用を明らかにした。同時に、微小管の形状に与える効果を解析するため微小管結合タンパク質存在下で重合した微小管を樹脂包埋し電子顕微鏡で解析を行った。
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