研究課題/領域番号 |
18K06939
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
黒川 理樹 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (70170107)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アルギニンメチル化 / RNA結合タンパク質 / TLS / FUS / lncRNA / pncRNA-D |
研究実績の概要 |
我々は、RNA結合タンパク質(RBP)・TLSがヒストンアセチル化酵素(HAT)を阻害することを示した。TLSのHAT阻害には長鎖非コードRNA(lncRNA)であるpncRNA-Dの結合が必須であった。本lncRNAはRBPに結合して生理的に機能していた。TLSのアルギニン(R)メチル化がpncRNA-D結合を抑制する結果を得て、Rメチル化がTLSのHAT阻害を抑制する仮説を着想した。本研究の目的は、この仮説の検証である。TLSはヒトHeLa細胞の2万種以上のRNAと結合するが、この結合はRメチル化により減少した。従って、Rメチル化は、TLSのlncRNA結合、すなわち、RNA結合タンパク質を介したlncRNA機能を抑制すると予測された。2018年度には、RNA結合に関与するアルギニン残基(R)を同定し、次にメチル化でpncRNA-D結合を抑制するRを決めた。詳細な生化学的・分子生物学的な解析からメチル化依存的にpncRNA-D結合を抑制するのは、R781 であった。 2019年度は、TLSアルギニンメチル化によるHAT阻害活性に対する効果を検証した。TLSのHAT阻害活性にはpncRNA-Dの結合が必須である。従って、アルギニン(R)メチル化によりpncRNA-DのTLSへの結合が抑制されると、TLSのHAT阻害活性は消失するはずである。これを検証した。大腸菌発現系で調製したGST-TLSは、まったくRメチル化されておらず、これにpncRNA-Dは結合する。そして、pncRNA-Dと結合したGST-TLSはCBP-HATを強力に阻害する。そこで、PRMT1でGST-TLSをRメチル化するとpncRNA-D結合が抑制され、HAT阻害が減弱する成果を得た。これは、TLSのRメチル化がTLS機能を制御するという画期的な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験計画が予定されたように進行した。したがって、おおむね順調に進展していると判断された。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、TLSメチル化により結合が抑制される非コードRNAの探索を行う。 TLSメチル化により結合が抑制されるlncRNA群をRNAseq法で探索する(図6)。まず、アルギニンメチル化したGST-TLSに、HeLa細胞の総RNAを結合させ、結合画分を調製する。対照群は、非メチル化GST-TLSとする。このTLS結合画分を逆転写酵素処理で、cDNAに変換して次世代シークエンサー(NGS)解析用のライブラリーを作成する。これらの試料をNGS解析して、配列データを得る。予備実験では、4500種類ほどのlncRNAがTLSに結合していた。メチル化によりTLS結合が抑制されるlncRNA群を同定する。この中かなら、HAT活性を阻害するlncRNAを見出す。すなわち、各lncRNAをHAT活性測定実験系に添加して阻害作用を調べる。そして、同定されたlncRNA群に関して、ノックダウンおよび強制発現実験を行い、HAT阻害による細胞増殖等への効果も探索する。この結果は、アルギニンメチル化がTLSを介して、lncRNA機能をグローバルに制御する、新しい仕組みを提示する。これは、Rメチル化によるTLSのHAT阻害の生物学的意義を検証する成果となる。 さらに、pncRNA-Dの腫瘍細胞の増殖に対する効果を調べる。予備実験から、HeLa細胞には増殖抑制的に働くことが示唆されている。このpncRNA-Dは特異的なアデニン残基がメチル化修飾を受ける予備的結果も得ている。RNAメチル化の生理的な機能も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた実験が失敗なく順調に実行された。さらに、経費節減に努めたことが奏功して、次年度の使用額が生じてきた。これは、上述の【今後の研究の推進方策】の実験等に使用する予定である。
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