ダウン症候群 (DS) は最も頻度の高い染色体異常による知的障害の原因であり、その知的障害は殆どのDS者で認められる。DS知的障害の分子メカニズムは不明であり、その対処法としては療育のみに頼っており、現状では薬物治療は存在しない。我々はこれまでに、DSモデルマウスを用いた研究によりDSモデルマウスの胎仔脳での神経新生低下を伴った脳発達遅滞が認められることを明らかとしており、この異常が知的障害の基盤となっていると推測している。そこで、網羅的な遺伝子発現解析を行い、その病態メカニズムの理解を試み、新規DS知的障害の治療法確立を目指している。これまでに血管内皮細胞に高発現する転写因子であるErgの発現上昇が、DSモデルマウスの胎仔脳での炎症亢進や神経新生減少の原因であることを明らかとした。本年度は、網羅的な解析において見出した脳血管発達関連遺伝子であるTbx1遺伝子の発現減少に着目し、詳細な解析を行った。また、胎生期での血管形態解析に加え、成体期での血管形態解析も行い、胎生期では血管形態の異常はみられないが、成体期で認められることを明らかにした。加えて、ミクログリア数の減少を見出し、DS病態でのミクログリア機能不全が考えられた。
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