研究課題
現在進められている創薬研究では、標的タンパク質の活性中心やリガンドポケットを狙う、所謂「オルソステリック創薬」が中心となっている。一方、この方法では類似のファミリータンパク質においても作用することが多く、これに起因する副作用問題の解決が重大な課題となっている。本研究では、タンパク質分子のダイナミックな動態遷移に着目し、その遷移状態を特異的に認識するペプチドの創製によりその問題を回避する新たな創薬技術に関する基盤研究を行う。神経情報伝達において重要な役割を担うニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)は、薬理的・電気生理学的な研究からリガンドacetylcholine (ACh)存在・非存在下で、エネルギー的に安定な3つの状態[active open (A), resting closed (R), desensitized (D)]の少なくとも3つの分子状態が存在することが提唱されている。我々はリアルタイム一分子動態計測により、第4の状態といえるallosteric transition state (X)の存在を示すことに成功した(Biophysical J. 2017)。本研究では神経系nAChRをモデル分子として設定し、今年度は分子進化で多様性の担保された生理活性ペプチドの分子骨格を鋳型とするランダムペプチドライブラリ(Mol. Brain 2011)から、リガンドの結合状態の異なるnAChRを標的として、試験管内分子進化技術によって遷移過程の構造を特異的に認識するペプチドを探索した。その結果、候補ペプチドを複数個同定することができた。今後、これらのペプチドの特性および相互作用様態をSPRやNMR、またin silico解析などにより明らかにするとともに、ペプチドの修飾等によるアロステリック創薬・遷移状態認識プローブの最適化を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
スリー・フィンガー型ペプチドをはじめとする、分子進化で多様性及び多能性の担保された生理活性ペプチドの分子骨格を鋳型とするランダムペプチドライブラリ(Mol. Brain 2011)から、リガンドの結合状態の異なるnAChRを標的として、試験管内分子進化技術によって遷移過程の構造を特異的に認識するペプチド候補を複数個同定することができた。探索は概ね予定通り進捗し、その数は当初計画で予測していたより2倍近い数のペプチドが候補として選定された。現在、これらの候補ペプチドを遺伝子組み換え及び化学合成によって調製する準備を進めており、個々のペプチドについて順次特性解析を行う。
現在までに、神経系ニコチン性アセチルコリン受容体alpha 7を標的として、その様々な分子動態遷移状態に結合し得るペプチドを試験管内進化技術により複数種類を同定した。次の実験ステージでは、遺伝子組み換え及び化学合成によりこれらの候補ペプチドを調製し、それぞれについて物理化学的及び生理生化学的な特性解析、分子動力学による相互作用動態シミュレーション、ペプチドの高機能化検討の段階に入る。具体的には、(1)候補ペプチドと標的分子の遷移状態との"動的結合様態"の解析標的タンパク質とペプチドの結合親和性をSPR(Surface Plasmon Resonance)や等温滴定熱量計測(ITC)により、また生理活性は細胞に発現した受容体チャネルに対する電気生理学的な計測により行う。また、竹内恒(産総研)の協力を得てNMRによる原子レベルでの動的結合様態・物性評価を行う。(2)in silico解析及び遷移状態認識プローブの高機能化ペプチドとalpha 7のin silicoモデリングによりペプチドの遷移状態認識の動的シミュレーションは、広川貴次(産総研)の協力を得て行う。また、これまでの知見を基盤としてペプチドの等価縮小化や化学修飾等による遷移状態認識プローブの高機能化を行う。これらの成果は、アロステリック創薬としての展開基礎になる者であり、それらを創薬シーズとする実用化に向けた次の研究開発展開を図る。
【一般向け講演会】Nature may tell us where to steer,久保 泰,筆頭・登壇,脳神経情報研究の最前線,つくば、2019/01/12
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Methods in Molecular Biology
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Scientific Reports
巻: 8 ページ: 1709
10.1038/s41598-018-35468-3