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2019 年度 実施状況報告書

受容体チャネルの分子動態遷移を識別するアロステリック創薬に関する研究

研究課題

研究課題/領域番号 18K06945
研究機関国立研究開発法人産業技術総合研究所

研究代表者

久保 泰  国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 招聘研究員 (10178030)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2021-03-31
キーワードアロステリック / 分子動態 / 遷移状態 / 進化工学 / アセチルコリン受容体
研究実績の概要

現在進められている創薬研究の多くは、標的となるタンパク質の活性中心やリガンドポケットを狙う、所謂「オルソステリック創薬」が中心となっている。一方、この方法では機能領域が類似するファミリータンパク質においても作用することが多く、これに起因する副作用問題が重大な課題となっている。本研究では、タンパク質が生体機能を発揮する過程で分子がダイナミックに分子内運動をすることに着目し、その遷移状態を特異的に認識するペプチドを創製することにより、従来の問題を回避する新たな創薬「アロステリック創薬」のプラットフォームを確立するための基盤研究を行う。
神経情報伝達において重要な役割を担うニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)は、リガンドacetylcholine (ACh)存在/非存在下でエネルギー的に安定な3つの状態[active open (A), resting closed (R), desensitized (D)]が存在することが、薬理学的・電気生理学的な研究から提唱されていた。我々はこれに加えて、第4の状態と言えるallosteric transition state (X)の存在をリアルタイム一分子動態計測により明らかにした(Biophysical J. 2017)。
本研究では神経系nAChRをモデル分子として設定し、分子進化で多様性及び多能性の担保された実績のある生理活性ペプチド分子骨格を鋳型とするランダムペプチドライブラリ(Mol. Brain 2011)から、リガンドの結合状態の異なるnAChRを標的として、試験管内分子進化技術によって遷移過程の構造を特異的に認識するペプチドを探索した。その結果、複数個の候補ペプチドを同定し、約70アミノ酸残基からなるペプチドは遺伝子組換えにより、また小型化したペプチドについては化学合成により調製する準備を進めた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

Three-Finger型(3F)ペプチドをはじめとする、分子進化において多様性及び多能性の担保された生理活性ぺプチドの分子骨格を鋳型とするランダムペプチドライブラリ(Mol. Brain 2011)から、試験管内進化技術によってリガンドの結合状態の異なる、即ち遷移状態nAChRを標的とするペプチドを探索した。合成/選択/濃縮から成る10ラウンドのスクリーニング・プロセスは概ね予定通りに進捗し、当初計画で予定していた2倍近くの候補の3Fペプチドを選定した。これらの3Fポリペプチドは、遺伝子組み換え発現による調製を行った。大腸菌による組換体は、いずれのポリペプチドも不溶性のInclusion Bodyとなり、強制可的溶化の後、透析によるリフォールディング、さらにタグによる精製を行った。これら一連の候補ペプチド調製・精製作業には想定以上に時間を費やした。
Three-Fingerでは、3本の個々の指(1F)が標的認識や生理機能を担う可能性が高いことが経験的に予想される(Mol. Brain 2011)。そのため、1Fペプチド(17-25アミノ酸残基)をペプチド合成機により合成することも、上記の遺伝子組換え発現による調製と並行して進めた。
昨年度秋以降のCOVID-19緊急事態による物流の急激な鈍化のため、試薬 等の入手に時間を要した。これらの事情が、いずれの実験手技においても研究進捗に影響を及ぼしたことは否めない。

今後の研究の推進方策

現在までに、神経系ニコチン性アセチルコリン受容体alpha 7を標的として、その様々な分子動態遷移状態に結合し得るThree-finger (3-F)ペプチドを試験管内進化技術により複数種類同定した。さらにこれらの候補ペプチドを遺伝子組み換え発現及び化学合成法により調製を進めている。今後は、精製したペプチドを用いて、それぞれの物理化学的特性および生理生化学的特性、分子動力学によるalpha 7との相互作用動態シミュレーション、ペプチドの高機能化検討を行う。
具体的には、
(1)候補ペプチドと標的分子の遷移状態との"動的結合様態"の解析
標的タンパク質とペプチドの結合親和性および熱力学的相互作用解析をSPR (Surface Plasmon Resonance)や等温滴定熱量計測(ITC)により、また生理活性は細胞に発現した受容体チャネルに対する電気生理学的な計測により行う。また竹内恒(産総研)や佐々木裕次(東大)の協力を得て、NMRもしくはDiffracted X-ray Tracking法により、原子レベルでの動的結合様態・物性評価を行う。
(2)in silico解析及び遷移状態認識プローブの高機能化
ペプチドとalpha 7のin silicoモデリング、遷移状態認識の動的シミュレーションを広川貴次(産総研)の協力を仰いで行う。その成果より、候補ペプチドの部分的改変や化学修飾など、さらに高機能化を狙った検討を行う。これら一連の流れにより、アロステリック創薬の基盤となるプラットフォーム形成を図る。

次年度使用額が生じた理由

2019年度研究進捗状況に記載のとおり、秋以降のCOVID-19緊急事態に伴い、研究試薬 等の納品見込みが大幅に遅れ、多くの消耗品の発注がキャンセルされました。研究を予定通り進めるために、これらは次年度での購入にずれ込むことになります。また、年度後半に計画していた国内外の学会での発表も、学会自体が中止となり発表の場を失うことになりました。次年度の開催時には複数内容での発表を予定しています。研究を予定通り推進し、さらに成果発表する場を確保するために、次年度使用額が有効に使えるようにお願いいたします。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2020 2019

すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)

  • [雑誌論文] cDNA Display of Disulfide-containing Peptide Library and in vitro Evolution2020

    • 著者名/発表者名
      Kubo, T., & Naimuddin, M.
    • 雑誌名

      Methods in Molecular Biology

      巻: 2070 ページ: 57-67

    • DOI

      10.1007/978-1-4939-9853-1_4

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Toward understanding of internal motion measurement with quantum probe and cryo-EM2019

    • 著者名/発表者名
      Mio, K.,Fujimura, A.,Kuramochi, M.,Ishihara, M.,Honda, M.,Kubo, T.,Sekiguchi, H.,Sasaki, Y.C.
    • 雑誌名

      JOURNAL OF PESTICIDE SCIENCE

      巻: 44 ページ: 210-215

    • DOI

      https://doi.org/10.1584/jpestics.W19-40

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] ANTAGONIST-INDUCED CLOCKWISE ROTATION IN THE TRPV12019

    • 著者名/発表者名
      Shoko Fujimura, Kazuhiro Mio, Masahiro Kuramochi, Hiroshi Sekiguchi, Muneyo Mio, Tai Kubo, Yuji C. Sasaki
    • 学会等名
      63rd annual meeting Biophysical Society (BPS19)
    • 国際学会
  • [学会発表] TRPV1 チャネルの 1 分子内回転動態の決定 Rotational Motions of Single TRPV1 Channel upon Gating2019

    • 著者名/発表者名
      三尾 和弘、藤村 章子、倉持 昌弘、関口 博史、三尾 宗代、久保 泰、佐々木 裕次
    • 学会等名
      第19回日本蛋白質科学会年会

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公開日: 2021-01-27  

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