研究実績の概要 |
現在進められている創薬研究の多くは、標的となるタンパク質の活性中心やリガンドポケットを狙う、所謂「オルソステリック創薬」が中心となっている。一方この方法では、リガンド結合領域を含む機能領域の配列や構造が類似するファミリータンパク質において広く作用することが多く、これに起因する副作用問題が重大な課題となっている。本研究では、タンパク質が生体機能を発揮する過程で分子がダイナミックに分子内運動をすることに着目し、その遷移状態を特異的に認識するペプチドを創製することにより、従来の問題を回避する新たな創薬「アロステリック創薬」のプラットフォームを確立するための基盤研究を行う。 神経情報伝達において重要な役割を担うニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)は、リガンドacetylcholine (ACh)存在/非存在下でエネルギー的に安定な3つの状態[active open (A), resting closed (R), desensitized (D)]が存在することが、薬理学的・電気生理学的な研究から提唱されていた。我々はこれに加えて、第4の状態と言えるallosteric transition state (X)の存在をリアルタイム一分子動態計測により明らかにした(Biophysical J. 2017)。 本研究では神経系nAChRをモデル分子として設定し、分子進化で多様性及び多能性の担保された実績のある生理活性ペプチド分子骨格を鋳型とするランダムペプチドライブラリから、分子状態の異なるnAChRを標的として、試験管内分子進化技術により遷移過程特異的なペプチドを探索した。これまでに複数個の候補ペプチドを同定している。これらのペプチドは遺伝子組換えにより、また一部は化学合成により調製し、それぞれの特性解析を進めた。
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