研究課題/領域番号 |
18K06949
|
研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
中島 修 山形大学, 医学部, 教授 (80312841)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 5‐アミノレブリン酸 / ヘム / インスリン抵抗性 / グリコーゲン / 糖代謝異常 / ゲノム編集マウス / グリコーゲン合成酵素 |
研究実績の概要 |
ALAS1+/-マウスは、ヘム生合成前駆物質である5‐アミノレブリン酸(ALA)の合成過程を触媒する酵素ALAS1の遺伝子破壊マウスであり、ALAの合成レベル低下により細胞内のヘムレベルの低下が起こり、ヘム欠乏状態となっている。我々の過去の研究から、ALAS1+/-マウスでは、加齢依存的に糖代謝異常が発症し、その原因がインスリンシグナル異常を伴わないインスリン抵抗性によることを明らかにしている。本研究では、ミトコンドリア電子伝達系に必須の生体分子であるヘムの欠乏状態で惹起される糖代謝異常発症の分子機構の解明を目指している。我々が解析対象としている ALAS1+/-マウスで加齢依存的に発症するインスリン抵抗性が、骨格筋でのグリコーゲン合成異常と関連していることから、ALAS1+/-マウスのインスリン抵抗性が、骨格筋型グリコーゲン合成酵素Gys1に対する、AMP依存的リン酸化酵素(AMPK)による調節異常により惹起されるかを生体内で検証するため、AMPKによりリン酸化されるGys1のsite2セリン(Ser8)をアラニンに変異させた点変異マウス(Gys1 S8Aマウス)をゲノム編集技術により確立した。Gys1 S8Aヘテロ接合体マウスに対するインスリン負荷試験(ITT)により、Gys1 S8Aヘテロ接合体マウスはインスリン抵抗性を発症することが明らかとなった。また、骨格筋および肝臓でのグリコーゲン含量を測定したところ、骨格筋では、ALAS1+/-マウスと同様にグリコーゲン含量が異常に増加しており、グリコーゲン代謝異常が起こっていることが示唆されたが、肝臓では正常値を示しており、グリコーゲン代謝は正常であると推定された。以上の解析結果から、Gys1のsite2セリンを介したAMPKによる骨格筋でのグリコーゲン合成調節の異常がインスリン抵抗性を惹起するのに十分であることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ALAS1+/-マウスでのインスリン抵抗性発症メカニズムの解明については、上述の通り、ゲノム編集マウスを確立して、その表現型の主要な解析を終えており、おおむね順調に進展している。ALAS1+/-マウスの肝臓、膵臓での異常の分子メカニズムの解析については、一定の成果を出すには、さらなる進展が必要な状況である。ALAS2+/-マウスにおける耐糖能異常発症メカニズムについても、さらなる解析の進展が必要である。ヒトにおけるALAS1/2遺伝子異常が関連した、糖代謝異常症例(ミトコンドリア糖尿病患者など)の探索については、山形大学医学部第三内科から提供された症例(6例)のエキソーム解析を行ったところ、ALAS1/2遺伝子異常は検出されなかった状況である。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度中に、研究成果を論文として出版する予定である。ALAS1+/-マウスでの肝臓における異常については、当初、骨格筋での異常と同様に、グリコーゲン合成異常が主要な原因と想定して、実験を進めていたが、骨格筋での異常とはメカニズムが異なることを示すデータが得られており、今度、糖新生制御に関連したメカニズムについて解析を進める予定である。ALAS1+/-マウスでの膵臓における異常の解析についても、実験を進めているが、今年度中には、一定の成果を出したい。ヒトにおけるALAS1/2遺伝子異常が関連した、糖代謝異常症例(ミトコンドリア糖尿病患者など)の探索については今後も症例解析を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
マウス作製にかかる消耗品の購入費用が低額で済んだため、残額については、次年度での消耗品購入に充当する予定である。
|