研究課題
5‐アミノレブリン酸合成酵素1(ALAS1)遺伝子破壊マウスヘテロ接合体(ALAS1+/-マウス)で惹起される糖代謝異常は、ヘム欠乏が原因であることが推定されていたが、組織中総ヘム量に有意な差が見出されなかったことから、タンパク質に弱く結合している制御性ヘムレベルの定量を行ったところ、10週齢と30週齢の野生型およびALAS1+/-マウスの骨格筋において、有意に加齢依存的に低下することを見出し、さらに、ALAS1+/-マウスの制御性ヘムレベルは、野生型マウスと比較して、10週齢では有意な低下は認められなかったが、30週齢では有意な低下が認められ、ALAS1+/-マウスおいて、制御性ヘムの加齢依存的低下がな糖代謝異常のトリガーとなっていることが示唆された。現在、この研究成果について、投稿準備中である。ピルビン酸負荷試験およびglucose 6-phosphatase (G6Pase)活性解析の結果から、ALAS1+/-マウス肝臓での糖新生が障害を受けていることを見出し、ALAS1+/-マウス肝臓でのグリコーゲン異常蓄積が糖新生の低下により惹起されることが示唆された。ALAS1+/-マウスの分離膵島のグルコース刺激性インスリン分泌が低下していることを見出し、ALAS1+/-マウスの糖代謝異常がインスリン分泌異常。マウス個体におけるヘム欠乏により惹起される糖代謝異常が、骨格筋での、グリコーゲン合成異常によるインスリン抵抗性、肝臓における糖新生異常、さらに、膵島におけるインスリン分泌異常による複合的な要因が関与していることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
ALAS1+/-マウスにおける糖代謝異常の分子機構解明にあたり、これまでの解析ではALAS1+/-マウスでの直接のヘム欠乏の証拠を見出していなかった。ヘム生合成前駆物質であるALA投与やヘム生合成阻害剤の効果から間接的にヘム欠乏が推定されいた。制御性ヘムの定量実験により、加齢依存的な制御性ヘムレベルの低下を見出した成果により、ヘム欠乏が糖代謝異常をもたらすことが明確になったことは大きな進展といえる。糖代謝異常をもたらす分子機構について、当初、グリコーゲン代謝異常が骨格筋をはじめ、肝臓等でも起こっていると想定していたが、解析を進めて行くと、骨格筋と同様のグリコーゲン代謝調節異常が、肝臓で起こっておらず、糖新生の異常が起こっていることを見出し、骨格筋とは別の糖代謝異常が惹起されていることが見出されたのは、予想外の展開であったが、ヘム欠乏によってもたらされる糖代謝異常の分子機構の理解が進展したと考えている。加えて、膵β細胞におけるグルコース刺激性インスリン分泌の異常が認められたことは、当初、予想はしてはいなかったが、ALAS1+/-マウスでインスリン抵抗性が起こっているにもかかわらず、血清インスリンレベルが野生型マウスと同程度であり、インスリン分泌異常が疑われることから、リーズナブルな結果と考えられ、ヘム欠乏により惹起される異常が、種々の臓器にわたることを示す成果となった。これらの成果から、進捗状況は、当初の予想とは異なっているが、発展しており、おおむね順調に進呈していると、判断している。
糖新生異常については、G6Paseの活性低下がヘム欠乏とどのように関連しているか、分子機構の解明を目指す。膵β細胞でのグルコース刺激性インスリン分泌異常が惹起される分子機構についても、さらに解析を進め、ミトコンドリア異常が関わっているかを中心に解析を進める予定である。加えて、骨格筋、肝臓等において、RNAシークエンス等を行うことで、網羅的な遺伝子発現の変化を解析することで、ヘム欠乏により惹起さる、生体内での異常を包括的に理解することを進める。
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