RASは癌を誘導する癌遺伝子として知られており、複数の下流シグナル経路がこれまでに同定されているが、未だに新たな分子経路の報告なども見られ、シグナル全貌が明らかにはなっていないと思われる。シグナルの全貌を明らかにすることにより、将来的には治療のターゲットとなり得る分子の同定を試みる。 これまでにNRAS変異のあることが知られている白血病細胞THP-1を用いて、内因性のNRASを遺伝子編集技術であるCRISPRにてノックアウトした後に、外因性にドキシサイクリン(Dox)依存的にNRASを発現できるベクターを導入し、DoxにてNRASの発現が調整可能な細胞を樹立確立した。昨年度までに、NRASシグナル非依存的に増殖できる代替可能シグナルの全貌を明らかにする為に、ランダムな変異を導入できるCRISPR libraryによる解析を行った。具体的には、遺伝子の発現亢進を誘導するCRISPR activation libraryを細胞に導入し、ランダムな遺伝子活性を誘導し、Doxを除いてNRAS発現量を低下させた後状態において、NRAS非依存的に増殖するクローンを樹立した。得られたクローンより導入されたガイドRNAを同定し、最終的に21個のNRASシグナル関連候補遺伝子を得た。 この21個の候補遺伝子に対し、CRISPR activationにて活性化を行い、Doxを除いてNRAS発現量が低下した状態で、細胞増殖誘導能を評価したところ、DOHHとTAF6の2つの遺伝子で統計学的に有意な細胞増殖能を確認された。また、Dox誘導によりNRASシグナルを活性化するとDOHHとTAF6の発現が誘導されることが、RNAレベル・タンパクレベルで確認された。 今回の研究において、NRASの下流分子として新たにDOHHとTAF6を新規に同定した。今後、これらの分子がNRAS変異腫瘍において、増殖の主体として治療の対象となるうるかさらなる検証をおこなう。
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