オートファジーの活性化は、癌の悪性化に寄与すると考えられている。しかし、これまで我々は、一部のヒト癌では、オートファジー関連遺伝子の不活性化により、オートファジー障害が起きている事を見出してきた。この知見から、オートファジー活性状態は各患者の癌で異なる可能性があるという着想に至った。そこで、本研究では、癌病態におけるオートファジー障害の生物学的な意義を詳細に理解し、オートファジー障害を持つ癌に対する治療戦略および各癌におけるオートファジー活性の測定法を確立することを目的として研究を行った。 本年度では、オートファジー障害を持つ癌細胞の分子特性を明らかにするために、プロテオーム解析および担癌マウスからの腫瘍を用いた遺伝子発現アレイ解析を行った。その結果、オートファジー障害を持つ癌細胞で特異的に発現上昇する複数の分子群および転写因子ネットワークを特定した。これらの分子群の活性化がオートファジー障害を持つ癌細胞の悪性化に寄与する可能性が考えられた。また、オートファジー障害を持つ癌細胞と持たない癌細胞を用いた承認薬ライブラリーのスクリーニングおよび担癌マウスを用いた投与実験の比較検討により、オートファジー障害を持つ癌細胞に対して極めて強い抗腫瘍効果を示す承認薬の候補化合物を特定した。本年度で得られた研究成果は、今後の研究進展およびオートファジー活性を基盤とした新たな癌の治療戦略の確立に繋がることが期待される。
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