本研究では、癌病態におけるオートファジー障害の生物学的な意義を詳細に理解すると共に、オートファジー障害を持つ癌あるいはオートファジー活性化癌に対する各々の治療戦略およびオートファジー活性の測定法を確立することを目的として研究を行っている。 本年度では、マウス乳癌細胞株およびマウスメラノーマ細胞株を用いて、CRISPR/Cas9システムにより、オートファジー関連遺伝子を欠損した細胞株を樹立した。それらのオートファジー欠損細胞では、造腫瘍能が部分的に亢進することを見出した。さらに、親株とオートファジー欠損細胞における遺伝子発現の比較により、オートファジー欠損細胞において、活性化する遺伝子群およびネットワークを同定した。これらの分子群の活性化がオートファジー障害を持つ癌細胞の悪性化に寄与する可能性が示唆された。一方で、これまでに、我々は、癌抑制型マイクロRNAであるmiR-634は、オートファジーを含め、複数の細胞生存システムを標的とすることで非常に強力な抗腫瘍効果を発揮することを見出してきた。本年度において、LNP(lipid nanoparticle)を介したデリバリーシステムにより、合成2本鎖miR-634の全身投与は、膵癌担癌マウスにおいて、顕著な抗腫瘍効果を発揮することを見出した。このことは、miR-634製剤の有用性だけでなく、オートファジーの活性化が癌の悪性化に寄与する癌種に対しては、オートファジーを阻害する治療戦略が有用である可能性を示唆している。このように、本年度で得られた研究成果は、今後の研究進展およびオートファジー活性を基盤とした新たな癌の治療戦略の確立に繋がることが期待される。
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