研究課題/領域番号 |
18K06955
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
堀 一也 福井大学, 学術研究院医学系部門, 助教 (50749059)
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研究分担者 |
青木 耕史 福井大学, 学術研究院医学系部門, 教授 (40402862)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 大腸癌 / 癌幹細胞 / CDX1 / CDX2 / LGR5 |
研究実績の概要 |
我々は現在、ホメオボックス転写因子であるCDX1とCDX2による、大腸癌細胞の癌幹細胞性維持に関わる遺伝子群(癌幹細胞性関連遺伝子)の発現制御機構の解明を進めている。これまでに、ChIP-seq法により、癌幹細胞性関連遺伝子(LGR5、ASCL2、CD44、ID1、ID3など)の発現調節領域や、遺伝子内またはその周辺において、CDX1とCDX2が結合するゲノム領域を多数同定した。そのなかで、大腸癌の癌幹細胞性の維持に特に重要と考えられているLGR5の発現制御機構に着目した。最初に、ChIP-qPCR法により、発現誘導したCDX1とCDX2、および内在性のCDX1とCDX2が、LGR5の転写開始点(TSS)付近のゲノム領域に強く結合することを示した。次に、CDX1とCDX2が結合することで生じる、ヒストン修飾(H3K27ac、H3K4me1、H3K4me3、H3K27me3、H3K79me2)によるクロマチンの構造変化を、ChIP-qPCR法により検証した。その結果、CDX1とCDX2の発現を誘導した大腸癌細胞では、LGR5のTSS付近のゲノム領域のクロマチン構造が弛緩していることを明らかにした。さらに、CDX1とCDX2が結合するゲノム領域を介した、LGR5の発現制御を解析するために、LGR5のプロモーター領域と、CDX1とCDX2の結合ゲノム領域をクローニングし、ルシフェラーゼレポーター解析を行った。その結果、活性型βカテニン(S33Y)の発現を誘導したHEK293T細胞では、レポーターの活性が増加した。一方で、CDX2を同時に発現誘導した細胞では、活性型βカテニン(S33Y)によるレポーターの活性化は顕著に抑制されることを明らかにした。これらの結果から、CDX1とCDX2は、本研究により同定したゲノム領域を介して、LGR5の発現を直接的に制御していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの解析により、LGR5の発現制御に関与する、CDX1とCDX2が結合するゲノム領域を同定した。また、LGR5のプロモーター領域と、CDX1とCDX2の結合ゲノム領域を含む、レポーターコンストラクトを作成した。今後、レポーター解析により、CDX1とCDX2によるLGR5の発現制御において鍵となるゲノム配列が特定できると期待できる。さらに、LGR5の発現制御において、CDX1またはCDX2と協調して働く分子の機能を、レポーター解析で検証する。また、CDX1とCDX2の結合ゲノム領域では、クロマチン構造が弛緩していることを明らかにした。そのゲノム領域では、RNAポリメラーゼがリクルートされていると考えられる。現在、RNAポリメラーゼに対する抗体を用いてChIP-qPCR解析を行い、LGR5のゲノム領域におけるRNAポリメラーゼの蓄積を検証している。一方で、我々はこれまでに、CDX1またはCDX2の発現を誘導した大腸癌細胞において、LGR5の発現が顕著に低下されることを明らかにしている。したがって、本研究課題の遂行により、これまでに知られているエピジェネティックな制御とは異なる、新たな遺伝子発現制御の解明に繋がる可能性がある。以上の理由により、当初の予定にしたがって、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析によって、LGR5のTSS付近において、CDX1とCDX2が結合するゲノム領域を同定した。さらに、レポーター解析により、CDX1とCDX2は、本研究により同定したゲノム領域を介して、LGR5の発現を直接的に制御していると考えられた。今後、CDX1とCDX2が結合するゲノム領域を狭めてから、CDX1とCDX2が結合する配列(TATAAAA)を検索し、それらの配列に変異を導入する。その変異型レポーターを用いてレポーター解析を行い、CDX1とCDX2によるLGR5の発現制御において、鍵となるゲノム配列を特定する。また、LGR5の発現制御において、CDX1またはCDX2と相互作用するタンパク質を同定するために、網羅的質量分析法による解析を行う。同定したタンク質と、CDX1またはCDX2とのタンパク質間相互作用は、免疫沈降法により確認する。さらに、CDX1またはCDX2との複合体形成により誘発される、LGR5の発現量やレポーター活性の変化を、レポーター解析やRT-qPCR法により検証する。
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