研究課題/領域番号 |
18K06956
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松本 真司 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (20572324)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | Arl4c / 膵がん / IQGAP1 / MT1-MMP / 細胞浸潤 / 転移 |
研究実績の概要 |
本研究では、「Arl4cによるIQGAP1との相互作用を介した新規の膵がん細胞の増殖制御機構」を明らかにすることを目的とし、2019年度は以下の研究成果を得た。 (1)膵がん細胞株S2CP8のヌードマウス膵同所移植モデルに対して、Arl4c-ASOを皮下投与したところ、膵臓原発腫瘍形成の有意な抑制は認められなかったが、腸間膜リンパ節への転移が有意に強く抑制された。(2)S2CP8においてArl4cおよびIQGAP1を発現抑制し、細胞運動と細胞浸潤を評価したところ、細胞の運動能と比較して、浸潤能がより強く抑制された。細胞外基質を含んだ3次元環境下での浸潤能を観察したところ、Arl4cとIQGAP1は浸潤突起の先端部に局在し、突起の先端部分で細胞外基質の分解を誘導することで浸潤能を亢進させていた。これらの結果から、in vivoの膵がん腫瘍形成においてArl4cは、がん細胞の浸潤と転移に重要であることが示唆された。(3)IQGAP1は、細胞骨格制御因子のRacやCdc42の活性化を介して細胞運動に関与するが、S2CP8細胞においてArl4cの発現抑制はRacとCdc42の活性化に影響しなかった。(4)IQGAP1は細胞膜貫通型のメタロプロテアーゼであるMT1-MMP(MMP14)の細胞膜へのリクルートを促進し、浸潤能を制御することが知られている。そこで、Arl4cを発現抑制したところ、IQGAP1に加えてMT1-MMPの細胞膜への局在が有意に抑制された。(5)野生型およびC末端を欠失させた細胞膜局在増強型MT1-MMP(MT1-MMPΔC)をArl4c発現抑制細胞に発現させたところ、MT1-MMPΔC発現で特異的に細胞浸潤能の抑制が回復した。この結果から、Arl4cはIQGAP1によるMT1-MMPの局在制御を介して、膵がん細胞の浸潤能を制御することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画「in vivo膵癌細胞ゼノグラフトモデルにおけるArl4c-IQGAP1相互作用の意義の解析」を行い、Arl4cの発現抑制が膵がん原発巣の大きさや増殖に対しては有意に影響せず、所属リンパ節への転移を強く抑制することが示唆された。膵がんは予後の非常に悪い癌であり、多くの症例で発見時にはすでに転移が認められ手術適応がない。がんによる死亡原因はこの転移によるものが最も多く、転移の制御は膵がんの予後改善のために急務とされている。そこで、生体内での膵がん形成におけるArl4cの重要な機能として細胞浸潤制御を新たに見出した。さらに、Arl4cがIQGAP1と相互作用することで、細胞外基質の分解酵素MT-1MMPの細胞膜への局在を制御することで、細胞浸潤に関わる分子機構を明らかにした。研究計画「Arl4cとIQGAP1の細胞内局在の相互依存性の解析」については、18年度におおむね終了している。また、「IQGAP1のArl4c結合ドメインの同定とArl4c-IQGAP1相互作用の機能的意義の解析」についても、結合ドメインの決定は18年度に終了しており、おおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はArl4cがIQGAP1との相互作用を介して膵がん細胞の浸潤・転移を制御するシグナル機構について、MT1-MMPに着目してさらに解析を進める。ヒト膵がん検体におけるArl4cおよびIQGAP1、またMT1-MMPIの発現と予後の相関について検討する。また、Arl4cがIQGAP1の細胞膜および浸潤突起先端への局在を制御する詳細な機構についても細胞膜のイノシトールリン脂質に着目して明らかにする。Arl4cを標的にしたAmNA修飾型アンチセンス核酸(Arl4c-ASO)の投与が、マウス原発性膵がんモデルに対して生存期間の延長効果があるか否かについて検討する。また、Arl4c-ASOの投与がin vivo腫瘍組織のIQGAP1とMT1-MMPの局在に与える影響を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
既に作製していた実験試料と入手済の物品を使用して、「in vivo膵癌細胞ゼノグラフトモデルにおけるArl4c-IQGAP1相互作用の意義の解析」および「Arl4cとIQGAP1によるMT1-MMPを介する細胞浸潤・転移制御機構の解析」を行ったため、2019年度の使用額が予定よりも少なくなった。 一方で、次年度以降は「Arl4c-IQGAP1シグナルの膵がんにおけるin vivoでの機能解析」および、「Arl4cとIQGAP1の細胞内局在の相互依存性の解析 」を行う予定であり、新たな細胞生物学実験試薬やマウスの購入等を予定している。
|