研究課題
本研究では、「Arl4cによるIQGAP1との相互作用を介した新規の膵がん細胞の増殖制御機構」を明らかにすることを目的とし、前年度までに、Arl4cはIQGAP1と相互作用し、IQGAP1とMT1-MMP(MMP14)の細胞膜への局在制御することで、膵がん細胞の浸潤能を促進することが示された。また、Arl4cに対するアンチセンス核酸(ASO)は、膵がんのリンパ節転移を有意に抑制した。この結果をもとに、2021年度は以下の研究成果を得た。(1) 蛍光標識したArl4cに対するASOを同所移植した膵がんマウスモデルに皮下投与したところ、ASOは膵臓に集積し、特に腫瘍病変に高度に蓄積していた。組織切片を作製したところ、ASOは全身投与後に膵臓の腫瘍細胞内に取り込まれており、一方で近傍の正常膵組織には蓄積を認めなかった。(2) 腫瘍組織からRNAおよびタンパクを抽出したところ、Arl4c ASOは、タンパクおよびmRNAレベルでArl4cの発現を減少させた。(3)原発膵臓腫瘍から抽出したRNAを用いてRNA-seq解析を行った。階層的クラスタリングによって、Arl4c ASOによって腫瘍部における遺伝子発現の有意な変化が認められた。Ingenuity Pathway Analysis(IPA)による発現変動遺伝子群のパスウェイ解析を行ったところ、細胞運動や浸潤への関与が予測され、in vitroで明らかにしてきたArl4cの機能解析の結果を支持するものであった。本研究により、Arl4cを軸とした膵癌の新たな浸潤機構が解明され、またArl4cが膵癌の有望な治療標的である可能性が示唆された。Arl4cは膵癌の重要なドライバーであるKRasの下流のエフェクターとして機能し、かつ膵癌の最大の死亡原因である転移の新たな分子基盤を形成することから、膵癌の病態解明、治療法開発の進展が期待される。
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