研究課題/領域番号 |
18K06957
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
枝松 裕紀 神戸大学, 医学研究科, 講師 (70335438)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Ras / がん / 細胞死 / 亜鉛 / タンパク質恒常性 / 小胞体ストレス / シャペロン / ストレス応答 |
研究実績の概要 |
亜鉛欠乏が引き起こすタンパク質恒常性破綻による細胞ストレス応答の機構について、前年度に引き続き、亜鉛欠乏下での活性型Ras発現によるストレス応答をモデル系とした解析を進めた。当該年度当初は、亜鉛欠乏下で機能を喪失してストレス応答につながる亜鉛結合タンパク質を、遺伝子ノックダウンによるスクリーニングで同定する予定であった。しかし、この方法では、候補分子として拾い上げた物の中から、この細胞ストレス誘導モデルに重要な亜鉛結合タンパク質を絞り込む有効な手段がなく、実施を断念せざるを得なかった。そこで、別の方法で亜鉛結合タンパク質を探索し直した。具体的には、(1)タンパク質合成時のタンパク質品質管理に関与し、(2)亜鉛との結合が正常な機能に必要で、さらに(3)がんにおける発現量と憎悪との間で正の相関を示すタンパク質を、公共の文献データベースと発現データベースの検索により拾い上げ、候補分子とした。それらの候補分子には、小胞体とゴルジ装置に局在するシャペロンタンパク質(以下、タンパク質X)が含まれていた。タンパク質Xはとりわけ興味深く、そのC末端に存在するヒスチジンのクラスターが亜鉛との結合と機能に重要であることが、他の研究者により既に示されていた。また、亜鉛と結合し得ない変異タンパク質Xはグリコシル化されることが既報などから示唆され、グリコシル化はタンパク質Xの亜鉛との結合の良い指標になると考えられた。そこで、当該細胞ストレス誘導モデルにおいて、グリコシル化を指標としたタンパク質Xの亜鉛との結合状態の検討を試みた。その結果、亜鉛欠乏下での活性型Ras誘導発現時には、タンパク質Xは、ストレス応答と相関して強くグリコシル化されており、亜鉛との結合の消失と機能の喪失が示唆された。以上から、亜鉛欠乏時の活性型Ras発現によるタンパク質Xの機能不全が、細胞ストレスを誘導する可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度の結果から分子機構モデルを修正し、当該年度の研究を進めた。その結果、亜鉛欠乏下での活性型Ras発現により機能を喪失し、その機能喪失が細胞ストレスの誘導につながる亜鉛結合タンパク質の候補として、シャペロンであるタンパク質Xを見出すことができた。その点では、一定の進捗があったと判断できる。一方で、タンパク質Xの機能不全の細胞ストレス誘導への関与の有無の証明に必要である、siRNAなどを用いた機能喪失実験が当該年度内に実施できず、次年度へ持ち越しの検討課題となった。この点においては、進捗が不十分であったと判断した。さらに、計画立案時には予見できなかった事情で、前年度末から研究設備の利用が充分にできない期間が生じ、加えて当該年度では研究以外の職務の増加による研究エフォートの低下もあった。これらの要因により、予定した実験が充分に進められなかった。以上の理由から、本区分を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の研究で、タンパク質Xが、亜鉛欠乏下での活性型Ras発現が引き起こす細胞ストレスの誘導に関係する分子の有力な候補となった。今後は、タンパク質Xの亜鉛欠乏下での細胞ストレス誘導への関与ついて、研究を重点的に進めていく。特に当該年度に実施できなかったsiRNAなどを用いた機能喪失実験を行い、亜鉛欠乏下での活性型Rasの発現によるタンパク質Xの機能喪失が、細胞死を含む細胞ストレス誘導の原因になることを明らかにしていく。また、ras変異を持つ様々ながん細胞株を用いた解析も行い、タンパク質Xのがん細胞でのタンパク質恒常性維持における意義も明らかにする。さらに、タンパク質恒常性維持機構の破綻を介した亜鉛欠乏が引き起こす様々な細胞応答ついても研究を進め、今後の研究の発展につなげる。当該年度終了後に、研究代表者が所属機関を異動した。それに伴い、研究機器の整備が必要となった。所属機関の協力を得ながら研究環境の整備を進め、上記の研究計画を推進できるようにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の当初に立てた計画では、ras変異がん細胞株を研究材料に用いた研究を進め、さらに変異ras遺伝子を有しない細胞株や初代培養系を用いた解析へと展開する予定であった。そのため、これらの細胞の準備のために予算を確保していた。しかし、予想外に前年度から引き続いている活性型Rasの誘導発現系を用いた解析に時間を要したので、新たな細胞株の購入や初代培養系の導入を見送らざるを得なかった。また、進捗状況の欄で説明したように、研究の実施全体に遅滞が生じたことから、試薬やプラスチック器具など、研究の進行に従って購入を進めていく消耗品の購入が計画を下回った。これらの理由により、次年度使用が生じた。次年度使用になった分は、当該年度に見送った細胞株や消耗品の購入、異動に伴い必要となった研究機器の整備に充てる計画である。
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