研究課題/領域番号 |
18K06960
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
土本 大介 九州大学, 生体防御医学研究所, 助教 (70363348)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | イノシン三リン酸 / ITPA / てんかん / 静止膜電位 |
研究実績の概要 |
ITPA遺伝子がコードするイノシン三リン酸分解酵素(Inosine triphosphate pyrophosphatase, ITPA)はイノシン三リン酸(ITP)を含む脱アミノ化プリンヌクレオシド三リン酸を加水分解して、各々の一リン酸型とピロリン酸に変換する。近年ヒトのITPAホモ欠損変異が小頭症や成長遅延を伴う重篤な乳幼児てんかん性脳症の原因となることが報告された。患者のほとんどは4歳未満で死亡する。 我々はヒトITPA欠損症のモデルマウスとして神経幹細胞特異的Itpaコンディショナルノックアウトマウス(cKOマウス)を作成した。本cKOマウスは神経細胞とミクログリアを除いたグリア細胞においてITPAが欠失し、出生後8日目以降に成長遅延を示し、約3週間で死亡する。またcKOマウスは自発性全般性けいれん発作と音刺激ストレス負荷誘導性けいれん発作を起こす。脳スライスを用いた電気生理学的解析により嗅内皮質神経細胞の静止膜電位の脱分極と活動電位発火頻度の上昇が明らかとなり、更に微小興奮性シナプス後電流と微小抑制性シナプス後電流の頻度も上昇していた。これらのデータは嗅内皮質神経細胞と上流の興奮性神経、抑制性神経の全てにおいて興奮頻度が上昇していることを示しており、脳神経活動のアクセル機能とブレーキ機能がどちらも亢進している状態を示唆する。 また病理形態学的解析において、cKOメスマウスの副腎皮質の低形成を認めた。cKOマウスでは副腎髄質、皮質ともITPAの発現消失を認めた。齧歯類ではメスの方が体重あたりの副腎重量比がオスよりも有意に大きいことが知られておりこのことがcKOマウスにおけるメス特異的な副腎皮質低形成と関わっている可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ITPA欠損によるヒトてんかん性脳症の動物モデルとしての神経幹細胞特異的Itpaノックアウトマウスの解析は順調に進み、静止膜電位脱分極やメス特異的副腎低形成などの重要な知見を得た。しかしその解析に時間がかかり、当初計画していたITPA遺伝子多型と結核/免疫との関連の解析やITPAのP32T型多型のモデルマウス作成は遅れてしまった。
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今後の研究の推進方策 |
ITPA欠損による神経細胞の静止膜電位脱分極がグリア細胞におけるITPA欠損ではなく、神経細胞そのもののITPA欠損が原因であることを証明するために前脳興奮性神経細胞特異的にITPAが欠損するItpa-flox/CaMKII-Creマウスの作成と解析を進める。また神経由来培養細胞の薬剤誘導性ITPA欠損株を作成し、静止膜電位脱分極の分子メカニズムの解明とITPA欠損症治療薬候補のスクリーニングの為に用いる。
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