ICF症候群は免疫不全、ペリセントロメア反復配列の低メチル化を伴う染色体の不安定化、顔貌異常を主徴とする遺伝性疾患であり、患者細胞では、ペリセントロメア領域を介して異なる染色体が融合した分枝染色体が高頻度に出現する。私達はCDCA7とHELLSを本症候群の原因遺伝子として2015年に同定した(Thijssen et al. 2015)。CDCA7とHELLSの機能を明らかにするため、CDCA7の相互作用蛋白質の網羅的探索を行い、CDCA7はHELLSと複合体を形成し、非相同末端結合(NHEJ)型DNA修復に必須のKu80が二本鎖DNA切断(DSB)部位に集積するのを促進する事で、NHEJを補助する事を見出した(Unoki et al. 2019)。またCDCA7欠損細胞では、DNMT1/UHRF1維持DNAメチル化複合体やRループの解消や形成阻害に重要な蛋白質の新規合成DNA鎖上への集積が減少している事を見出した。CDCA7及びHELLS欠損細胞では、低メチル化したペリセントロメアから異常な転写が起こり、Rループが当該領域に蓄積し、さらにDSBも蓄積していることがわかった。RNASEH1でRループを解消するとDSBが減少した事から、ペリセントロメアに生じた異所性のRループが、DSBの原因であることがわかった(Unoki et al. 2020)。Rループに起因するDSBは相同組替え(HR)で主に修復され、またCDCA7及びHELLSの変異はNHEJの効率を低下させてHR優位な状況を作り出すことが予測される。そのため姉妹染色分体が存在しないG1期において、ペリセントロメアに生じたDSBをHRで修復しようとすると、異なる染色体のペリセントロメア反復配列間でDNA鎖の組換えが生じ、中間体(ホリデイジャンクション)が上手く解離できないために、染色体融合が生じる可能性が示唆された。
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