生活習慣病とがんには類似点がある。一点目は慢性炎症状態であること、二点目はmTORC1の異常活性化が観察されるという点である。これらの類似点から、申請者は本研究において「mTORC1下流のFOXK1経路は生活習慣病とがんに共通する慢性炎症シグナル機構である」という仮説を立て、その検証を行った。申請者はこれまでに、腫瘍へのマクロファージ浸潤にFOXK1経路が重要であることを報告した。発がんのステップでmTORC1は異常活性化が引き起こされる一方で、糖尿病の肥満脂肪においては過剰栄養摂取によってmTORC1活性化が誘導される。そこで脂肪細胞組織に特異的なFOXK1欠損マウスを作製し、過剰栄養に起因する糖尿病において各種症状が改善するかを検討した。Adiponectin-Creによる脂肪組織でのFOXK1遺伝子欠損マウスを用いた解析を行ったところ、耐糖能、インスリン抵抗性を含め糖尿病の病態には差が見られなかったため、脂肪組織のFOXK1が糖尿病発症には寄与しないと結論付けた。 一方でAlbumin-creを用いた肝臓特異的FOXK1欠損マウスを用いた解析において、脂肪肝のみならず関連する炎症、線維症、および腫瘍形成を抑制することを見出した。またゲノムワイドなトランスクリプトミクスおよびクロマチン免疫沈降分析により、肝臓におけるFOXK1の直接の標的としてPparaを含むいくつかの脂質代謝関連遺伝子が同定した。以上の結果は論文投稿中である。この結果はFOXK1が肝脂質代謝の調節に重要な役割を果たしており、その阻害がNAFLD-NASHおよびHCCの有望な治療戦略であることを示唆するものである。
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