研究課題
リボソームは、mRNAからタンパク質を作るのに必要不可欠な、すべての生物が持っている最も基本的な細胞内装置である。近年、さまざまな原因によるリボソームの機能障害が、特定の疾患群と関連することが明らかとなり、それらの疾患群を総じてリボソーム病と呼び注目されている。NOL9はDNAおよびRNAの5'末端をリン酸化しうるポリヌクレオチドキナーゼの一つであり、リボソームRNAの生合成に関わると考えられている。本研究では、Nol9遺伝子改変マウスを用いて、Nol9の生理的役割とリボソーム病の発症機序について解析を行なった。まず、Nol9の発現組織について検討を行ったところ、他の組織に比べ造血系組織において発現が高いことが確認された。そこで、Nol9 floxマウスと造血細胞特異的Creリコンビナーゼ発現トランスジェニックマウスを交配することにより、造血細胞特異的にNol9遺伝子を欠損したマウスを作製した。造血細胞特異的Nol9欠損マウスは、貧血様症状を呈し、周産期に死亡した。胎生14日目の造血細胞特異的Nol9欠損マウスの胎仔肝を採取し、フローサイトメトリーにて解析を行ったところ、Nol9の欠損によって赤血球の分化が損なわれていることが明らかとなった。次にNol9欠損が胎生期の造血においてのみ影響を与えるのか調べるために、Nol9 floxマウスを時期特異的Creリコンビナーゼ発現トランスジェニックマウスと交配させ、8週齢においてNol9遺伝子の発現が欠損するマウスを作製して解析したところ、造血細胞特異的Nol9欠損マウスと同様に、貧血症状を呈した。これらの結果から、生体内においてNol9がリボソームRNAの合成に関与しており、Nol9の欠損がリボソーム病のような症状を引き起こすことが明らかとなった。今後、さらに詳細な解析を行い、分子メカニズムついて明らかにする必要がある。
2: おおむね順調に進展している
Nol9遺伝子改変マウスを解析し、申請時に予想していたとおりの結果が得られた。初年度としてはマウスの表現型を詳細に解析することを目標としていたが、2種類のモデルを用いてNol9の異常がリボソーム病様の表現型を示すことを明らかにできた。これにより、新たなリボソーム病のモデルマウスを確立できたため、初年度の達成度としては概ね順調であると判断した。
これまでにNol9遺伝子改変マウスがリボソーム病様の表現型を示すことを明らかにできたが、なぜNol9の異常がリボソーム病様の病態を引き起こすのかは明らかにできていない。今後は、その分子機構を解明するために、in vivo、in vitroの両面から解析を行いたいと考えている。また、リボソーム病ではがん発症リスクが増加することが知られているが、その理由はあまり分かっていない。今後は本研究で確立されたモデルを用いて、この点にも注目して解析を行いたい。
申請時に予定していた他県での学会発表ではなく、県内の学会で発表したため、未使用額が生じた。未使用額は次年度の学会発表にあてる予定である。
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Molecular and Cellular Endocrinology
巻: 474 ページ: 184-193
10.1016/j.mce.2018.03.008