N-ミリストイル化は、脂肪酸の一種であるN-ミリスチン酸がタンパク質に共有結合し、疎水性相互作用を介してタンパク質を膜につなぎとめる働きをもつ、翻訳後修飾の一種である。N-ミリストイル化は、がん原遺伝子チロシンプロテインキナーゼSrcの活性化に必須であることが知られており、さらに様々な癌でN-ミリストイル化酵素の顕著な発現増加が見出されており、癌化との関係の深い修飾の一つである。一方で、細胞内のミスフォールドタンパク質の分解に関わるプロテアソーム複合体においては、約30の構成サブユニットにおいて350種類以上のリン酸化・アセチル化を含む様々な修飾の存在が確認されているが、このうち脂質修飾として見つかっているのは、PSMC1サブユニットに見られるN-ミリストイル化修飾のみであった。酵母ではPSMC1のN-ミリストイル化修飾の有無によってストレス応答性が変化することが分かっているが、ヒトにおける本修飾の役割は不明であり、申請者らは本修飾と癌の微小環境ストレス応答との関連性を調べる研究を進めている。 本年度は、昨年度までの解析でN-ミリストイル化酵素の顕著な発現量差が見られた癌由来培養細胞株、およびプロテアソームのN-ミリストイル化部位のグリシンを修飾を受けないアラニンに置換した変異導入細胞株と同部位を保持した野生型細胞株を用いて、細胞内タンパク質およびユビキチン化タンパク質の比較プロテオーム解析を行い、プロテアソームのN-ミリストイル化レベルの違いによる細胞内タンパク質分解系の変化を明らかにした。
|