本研究では、S-nitrosoglutathione reductase (GSNOR) というS-ニトロソ化タンパク質からNOを取り除く酵素として知られる分子を標的分子として膵β細胞や糖尿病での役割の解明を目的に培養細胞およびGSNORノックアウトマウスを用いた解析を行った。WTマウスおよびGSNOR欠損マウスにそれぞれストレプトゾトシン(STZ);40 mg/kg BW IPという低用量の条件で投与することにより糖尿病状態を誘発するモデルを用いた。STZ投与前における定常状態での血糖値はGSNOR欠損マウスの方が上昇する傾向が認められた。また、SRZ投与後の血糖値は、WTタイプマウスの血糖値と比べてGNSOR欠損マウスの方で顕著に上昇が認められた。また、STZ投与マウスにおける膵β細胞におけるPDX-1発現を検討した結果、WTマウスと比較して、GSNOR欠損マウスでPDX-1の発現が減少していることを明らかにした。PDX-1は膵β細胞のマスターレギュレータ―であることから、GSNORが生体内に存在するとSTZ誘発糖尿病に保護的に作用する可能性が考えられた。さらに、これらのマウス膵β細胞のアポトーシスの程度を比較検討したところ、GSNOR欠損マウスにおいてPDX-1の減少と相関してアポトーシスの増加が認められた。これらの結果から、GSNORがSTZで誘発されるNO 産生を除去する作用を持っており、糖尿病改善作用の一部を担っていることが示唆された。このほか、昨年度明らかにした凝固因子Factor Xaの膵β作用における役割では、Xa /glucose刺激によりMAPK p42-44のリン酸化の程度が上昇し、一方で、リバーロキサバンの前処理はこれらの炎症反応を抑制した。また、この反応がプロテアーゼ活性化受容体PAR-1を介した反応であることを見出しており、GSNORとの関わりを現在検討しているところである。
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