研究課題/領域番号 |
18K06973
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
志関 雅幸 東京女子医科大学, 医学部, 准教授 (90260314)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 骨髄異形成症候群 / 染色体欠失 / がん抑制遺伝子 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、難治性疾患である骨髄異形成症候群(MDS)の分子病態を明らかにすることである。特に、我々はMDSに高頻度で見られる20番染色体長腕欠失に注目し、共通欠失領域に存在する約150の遺伝子の中に疾患関連遺伝子があることを想定し、その同定、機能解析を行うことでMDSの分子病態解明に寄与し、新規治療法の開発につなげたいと考えている。これまでの各種の研究に関する報告から、がん抑制遺伝子の機能が想定される37遺伝子に関して、変異解析を行ったが、変異は認められなかった。続いて、それらの遺伝子発現レベルと臨床的意義について検討し、MDSの臨床病態に有意な関連が認められた遺伝子PTPN1, PLCG1, BCAS4についてMDS分子病態を明らかにすべく機能解析を行っている。具体的には、細胞株を用いた発現レベル調節可能な過剰発現系、発現遮断系を用いた機能解析を行っている。PTPN1については、そのチロシン脱リン酸化酵素としての作用がJAK2を介した細胞内伝達経路において重要であることをしめし、その異常がMDSの病態に関与してる可能性を示した。 一方で、残りの遺伝子に関しての変異解析、発現解析を開始しており、発現低下を示す遺伝子の中で新たにGNAS1発現低下の臨床的意義についての検討を開始している。昨年度は、これまでの成果に関して、海外学会(欧州血液学会、米国血液学会)において成果を発表し、また、2報の英文論文が海外雑誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①PTPN1およびPLCG1に関しては過剰発現系および発現遮断系を用いた解析は順調に進んでおり、造血器腫瘍における細胞増殖に中心的役割を果たすJAK2-STAT5経路においてPTPN1の脱リン酸化酵素としての役割の喪失が重要であること、さらにPLCG1そのものがホスホリパーゼCとしての酵素活性と同時にPTPN1と物理的相互作用をしてPTPN1の活性制御を行っている可能性があることが示された。つまり、一方の発現が低下しただけで、JAK2-STAT5経路の調節に影響する可能性がある。現在はJAK2以外の細胞増殖に関与するチロシンキナーゼ経路への影響を見ている。 ②BCAS4に関しては、強制発現系および発現遮断系を用いて解析を行い、強制発現が増殖抑制をもたらし、アポトーシスを誘導することを示した。しかし、その具体的な分子機構は不明で、この遺伝子産物の機能はまだ十分にわかっておらず、構造からは細胞内における分子輸送などに関与している可能性が示されているが、今後解析を継続する。 ③最初に解析を行った37遺伝子以外の残りの遺伝子の解析をおこなった。次世代シーケンサ-を用いてスクリーニングを行い、報告されているSNP以外の変異は発見されなかった。現在は発現解析を行い、発現レベルと臨床的意義の関連を検討しているが、その中でGNAS1に関してその異常の臨床的意義が示唆された。現在詳細な解析を実施しており、その意義が確認されれば機能解析に進む予定である。 以上おおむね計画通りではあるが、BCAS4に関しては、もともと機能が不明な分子であり、細胞増殖抑制およびアポトーシス誘導の具体的なメカニズム解析は若干遅れているので、次年度はBCAS4の機能解析に注力する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
①PTPN1およびPLCG1に関しては、MDSにおいて病態に関与するJAK2以外のチロシンキナーゼの関与する細胞内経路(具体的にはABL1,cKITなど )との関連を検討する。 ②BCAS4に関しては、今後より詳細な機能解析を通じてその生物学的役割を検討する。具体的には免疫沈降法によりBCAS4と相互作用する分子を同定したり、細胞内局在の変化などを検討する。 ③新たに臨床的意義が示されたGNAS4に関しては、機能解析の準備を開始する。具体的にはこれまでの各遺伝子の機能解析と同様に、MDSあるいは骨髄性白血病由来細胞を用いて発現調節が可能な強制発現系の樹立を目指す。また、発現遮断のためsiRNAをデザインする。 ④遺伝子発現解析がまだ実施されていないものについては、これまでの様々な報告あるいは、公開されている公的データベースのデータを参考にして発現解析を行う遺伝子の絞り込みを行い、現在さらに10の遺伝子の解析を予定している。 また、本年度は本研究による成果をまとめ、二つの論文で発表したが、現在PTPN1を中心とした機能解析に関する論文を作成中であり、次年度内には論文受理を目指したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本来は、本年度内で購入予定であった抗体3種(中国製)の納入がCOVID19の影響で遅れたこと、および遺伝子発現解析用のリアルタイムPCR試薬用キットが遅れたことにより、約36万円分が繰り越しとなったほか、細胞培養試薬およびフラスコなどは予定より数量は予定より多く使用したものの、キャンペーン時の一括購入により10万円ほど予定より安価納入できたことが主な理由である。遅れている抗体は近々納入可能である。リアルタイム試薬も5-6月には未定となっている。抗体およびリアルタイム試薬は今年度繰り越して使用する。安価購入による分は、今年度の研究で必要となる見込みであるフローサイトメトリー用試薬などに使用することを計画している。
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