研究課題
前年度に引き続き、リン脂質分解酵素群の全身欠損マウスおよび組織特異的欠損マウスを用いて表現型解析を進め、主に以下のような研究進展があった。(1)リン脂質のホスファチジルコリン→リゾホスファチジルコリン→水溶性のグリセロホスホコリン→コリン、と代謝する内因性コリン産生経路に関わるホスホリパーゼA2およびリゾホスホリパーゼとして、iPLA2γとiPLA2θの解析をさらに進めた。iPLA2θが欠損した初代培養肝細胞においても、グリセロホスホコリンやコリンの減少に伴ってFGF21の発現が誘導され、さらに培養液にメチオニン・コリンを過剰添加することでこの発現誘導は抑制された。重水素標識したリン脂質を用いて、内因性コリン産生経路の代謝フラックスを分析するとともに、acuteに上記酵素を欠損させた場合、あるいは逆に強制発現させた場合のグリセロホスホコリンやコリンの変化を定量することで、上記の仮説の妥当性を検証した。(2) 神経系特異的にiPLA2δとiPLA2θを同時欠損させたマウスは、若齢期より神経変性を示して、歩行異常、運動能力の低下、骨格筋萎縮などを呈した。このダブル欠損マウスでは、骨格筋の萎縮や大腿筋神経・筋接合部位の除神経に先立って、骨格筋を支配する脊髄前角細胞(=下位運動ニューロン)の変性が生じた。そのため、運動神経特異的にiPLA2δとiPLA2θを欠損させたところ、若齢期には明確な異常は検出されず、背骨の彎曲、歩行異常、骨格筋萎縮が見られる時期が9ヶ月齢頃と大きく遅延した。したがって、神経系特異的ダブル欠損マウスで観察される早期の運動ニューロン変性には、グリア細胞などの非運動ニューロンにおけるリン脂質代謝分解経路も関与する可能性が高いと考えられた。
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
FASEB J
巻: 36 ページ: e22301
10.1096/fj.202101958R
https://www.igakuken.or.jp/biomembrane/publication.html