研究実績の概要 |
本研究では, 1) 大腸がん肝転移において, 転移したがん細胞周囲の肝細胞がHeregulin(HRG)を産生するメカニズムについての解明. 2) HRGの肝再生への関与についての解明. 3) 大腸がん肝転移巣に対する, HRG関連分子を介した新規の分子標的療法の検討を目的とする. 令和4年度の実績としては, 目的1)において, 親株のヒト大腸がん細胞LS174Tと高肝転移ヒト大腸がん細胞LS-LM6にDNA microarrayを行い, 高肝転移がん細胞で発現が上昇した幾つかの分子のタンパク質のうち, サイトカインを中心に, これらを初代培養肝細胞やcell line化したマウス培養肝細胞などに投与して, 肝細胞のHRG産生に対する影響をmRNAレベルやタンパク質レベルで検討したが, まだ肝細胞のHRG産生を促す因子の同定には至っていない. 目的2)のHRGの肝再生への関与についての解明に対しては, 肝細胞特異的なHRGのConditionalKnock out(KO)マウスを用いて, 肝再生においてHRGが果たす影響を検討する予定だが, まだ進展していない. 目的3)のHRG関連分子を介した新規の分子標的療法に関する検討については, HRGのレセプターであるErbB3(HER3)に対して, 共同研究者と共に新たに作製した抗体(抗HER3抗体)に対する検討を加えている. この新規の抗体は, In vitroでは, HRGとHER3の結合やHER3のリン酸化を抑制し, 増殖を抑制することが判明し, また, in vivoでは, ヒト手術検体中の大腸がんを認識していた. この新規のHER3抗体は, ヌードマウス皮下でのヒト大腸がん細胞や高肝転移ヒト大腸がん細胞の増殖を抑制することが判明したことから治療効果が期待できる. この結果は既に共同研究者と共に論文発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究の目的1)に関しては, 肝細胞のHRG産生を促す, 肝転移したがん細胞側が出す因子がまだ同定されていないので, 新たな分子が関与する可能性について引き続き検討を進めていく. 目的2)においては, HRGのconditional KOマウスを用いて, 肝再生においてHRGが果たす影響を検討する予定だったが, マウスの作製が難しい状況になってきており進捗の状況は遅れている. 目的3)の大腸がん肝転移巣に対する, HRG関連分子を介した新規の分子標的療法の検討については, 共同研究者と新規のErbB3(HER3)抗体を作製し, この抗体はHRGのHER3に対する結合を阻害し, in vitro及びin vivoでのヒト大腸がん細胞の増殖を抑制することが判明した. 大腸がんの進展を抑制する可能性がある新規のHRG関連抗体を作製することができたことから, 目的3)においては達成することができたと考える.
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今後の研究の推進方策 |
研究の目的1)に関して, 肝細胞がHRGを産生するメカニズムについての解明のため, 引き続き, DNA microarrayの結果に基づいて, 肝細胞のHRG産生を促す, 肝転移するがん細胞側の因子の同定に努める. 2種類のマウス培養肝細胞に, 高肝転移がん細胞で発現が上昇した幾つかの分子のタンパク質のうち, 新たに入手した数種類のマウスのサイトカインを投与して, 培養肝細胞のHRG産生に対する影響をmRNAレベルやタンパク質レベルで検討していく. 研究の目的2) HRGの肝再生への関与についての解明については, 肝細胞でのHRG conditional KOマウスの作製を可能な範囲で進める予定である. 研究の目的3)については, 大腸癌の進展を抑制する効果が期待できる新規のErbB3(HER3)抗体を作製してその性状を報告したことから, 今後は, 大腸癌細胞に対して他にどのような効果があるのか検討していく.
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