研究実績の概要 |
代表者はこれまでに癌細胞の浸潤に関与する分子の探索として二酸化チタンを用いて癌細胞中のリン酸化ペプチドの網羅的解析を行ったが同定したセリン/スレオニンリン酸化ペプチドと細胞運動関連経路との関連性を見出せなかった。そこで2020年度はリン酸化ペプチドの中でも微量であるがシグナル伝達との関係の密接なリン酸化チロシンペプチドを対象としてプロテオーム解析を行った。リン酸化チロシンと特異的に結合するSrc蛋白の144-252残基に3変異を加え結合性を高めたSrc-superbinder(Kaneko 2012)を大腸菌を用いて作製、sepharoseビーズに 結合させた担体を作製した。この担体を用いて過酸化バナジル酸ナトリウム処理口腔扁平上皮癌細胞H01N01のLC/MS/MS質量分析を行った結果396個の独立したペプチドを同定し、その内243個がリン酸化チロシンペプチドであり、アフィニティ精製方法の特異性が確認された。本法を用いて肺腺癌組織4例についてリン酸化チロシンペプチドのプロテオーム解析を行った結果、207-399個の独立したペプチドを同定し、6-20個がリン酸化チロシンペプチド(ANXA2P2,ARHGAP35, ARHGAP42, CAV1, CD247, DYRK1B, MAPK1, MAPK3, MAPK13, MAPK14, MPZL1, PEAK1, PTPN11, PXN, RPS10, SHC1)であった。同定されたリン酸化チロシンペプチドの生物学的意義についてgene ontology解析を行った結果、細胞運動に関係する分子としてARHGAP35, CAV1, PEAK1, PXN, SHC1, PTPN11が同定された。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度においては正常組織と腫瘍組織でのリン酸化チロシンペプチドプロファイルの違い、肺癌組織におけるARHGAP35, CAV1, PEAK1, PXN, SHC1, PTPN11の発現の の臨床病理学的な検索、そのチロシンリン酸化の癌細胞の浸潤能に与える影響の実験的検討、2018年度に細胞骨格関連分子として質量分析で同定した分子の臨床病理学的・実験的検討を計画している。
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