研究実績の概要 |
質量分析を用いて癌細胞の浸潤を制御する細胞骨格関連分子の同定を目指す研究を引き続き行った。ビオチン標識酵素APEXを結合させたアクチンおよびRap1bをMDA-MB-231細胞にdoxycycline存在下で発現させ細胞内でそれぞれの近傍に局在する蛋白をビオチン標識、精製しLC/MS分析を行った。これまでの実験と合わせcortactin,アクチン,Rap1b 3個のbaitによって607個の蛋白が同定された。公開databaseを基にMDA-MB-231細胞・肺癌組織で高発現、肺腺癌の予後と相関する分子として32個を絞り込み、さらにshRNAを用いてMDA-MB231細胞の運動能を抑制する分子としてLASP1, CLIC1, CAP1, CAPG, FKBP52を絞り込んだ。それらの肺腺癌組織での発現を免疫染色学的に検索したところLASP1は正常気道上皮/肺胞上皮には発現が認められない一方で肺腺癌141例中119例で発現が認められた。LASP1を無・低発現72例/高発現69例に分けると浸潤径(22㎜/31㎜)、胸膜浸潤あり(27例/26例)、リンパ管侵襲あり(14例/7例)、静脈侵襲あり(39例/26例)、リンパ節転移あり(22例/17例)でいずれも有意差を認めず臨床病理学的に浸潤との相関性を示すには至らなかった。 リン酸化チロシン特異的担体Src-superbinderを用いた肺腺癌組織中のリン酸化チロシンペプチドのLC/MS分析を進展させ、正常肺組織2例、腺癌組織4例との比較を行い、CAV1(Y14 3/4例), SHC1(Y318 4/4例)が肺腺癌のみで同定された。CAV1 Y14は細胞膜への解糖系酵素の運搬、Src・Rho蛋白の活性制御を介して細胞運動に関与することが過去に報告されており肺癌細胞の浸潤病態への関与が示唆された。
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