研究課題
膵癌は、恒常的に活性化されたMAPキナーゼにより浸潤能や生存能を維持している。したがってMAPキナーゼは膵癌の有望な治療標的と考えられる。しかし、これまで施行された臨床試験で膵癌患者に対するMAPキナーゼ阻害薬の有効性は示されていなかった。私は、生体での膵癌細胞に対するMAPキナーゼ阻害薬の効果を検証するために、ヒト膵癌細胞を同所移植した免疫不全マウスを用いて治療実験を施行した。治療群では投与開始直後から腫瘍は増殖が抑制されて2週目ごろには検出限界値以下まで縮小した。しかし、すぐに抗腫瘍効果は消失して、2週目以降は治療群と対照群の腫瘍はほぼ同様な増大傾向を示した。その結果、治療群の生存期間はわずかに延長したものの、最終的には両群のすべてのマウスが癌死に至った。以上の結果から、治療群ではMAPキナーゼ阻害薬耐性獲得に関わる分子機構が早期に発動されることが示唆された。本研究では、耐性獲得機序の解明と耐性克服のための治療法の開発を目的とする。昨年度までに、網羅的発現解析を施行し、耐性関連遺伝子候補としてClusterin (CLU)を同定した。今年度は、膵癌細胞のMAPキナーゼ阻害薬耐性化におけるCLUの機能的意義について検討し、以下の結果を得た。1.約80%のヒト膵癌細胞株で、CLUの恒常的発現あるいはMAPキナーゼ阻害薬投与による発現誘導を認めた。CLUは抗アポトーシスタンパクとして機能し、増殖能亢進に寄与していた。2.約70%のヒト膵癌細胞株で、CLUの発現抑制により細胞増殖能が低下した。さらに、MAPキナーゼ阻害薬との併用により相乗的な増殖抑制が認められた。3.約50%のヒト膵癌症例でCLUの恒常的発現を認めた。以上の結果から、MAPキナーゼ阻害薬耐性化に関わるCLUを標的とした治療とMAPキナーゼ阻害薬との併用療法は、膵癌の新規治療法となり得ることが示唆された。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (2件)
The Journal of Pathology
巻: 251 ページ: 12~25
10.1002/path.5394
Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 528 ページ: 586~593
10.1016/j.bbrc.2020.05.140
Annals of Gastroenterological Surgery
巻: 4 ページ: 571~579
10.1002/ags3.12367