研究課題/領域番号 |
18K06997
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
安田 政実 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (50242508)
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研究分担者 |
矢野 光剛 大分大学, 医学部, 助教 (70817064)
長谷川 幸清 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (30534193)
宮澤 昌樹 東海大学, 医学部, 客員講師 (30624572)
宮澤 麻里子 東海大学, 医学部, 特定研究員 (80637091) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 卵巣癌 / 低酸素 / HIF-1α |
研究実績の概要 |
Hypoxia-inducible factor-1(HIF-1)は,腫瘍の浸潤や転移といった悪性形質の獲得において,低酸素環境をsurvivalする上で必須の因子と考えられ,いわゆる「低酸素腫瘍学」の要をなしている。 これまで我々は,計4回におよぶ基盤研究(C)の獲得によって得た財源を元に,連綿と「低酸素腫瘍学」の対象を主に卵巣に置き,以下に示す一連のテーマに取り組んできた。起点は平成21~23年度[治療の個別化を視野にいれた,卵巣腫瘍における低酸素関連因子の解析]にさかのぼり,平成24~26年度[治療の観点からみた卵巣癌の特徴付け:低酸素関連因子の発現に基づいた治療の個別化],平成27~29年度[低酸素関連因子の核内移行とその抑制効果の検討:治療的視野からみた個別化],平成30~令和2年度[卵巣癌における,低酸素関連因子の発現からみた組織型の意義:化学療法抵抗性の分別化]。なお,[平成30~令和2年度]に関しては昨年の春(2021年3月)をもって丸3年の終了時期を迎えたが,引き続き残りの財源の使用を認められて4年目の継続となった。 卵巣癌は,個々に独立した多様な組織型からなるヘテロ集団であり,治療の層別化を進める上で,低酸素関連では2つの因子がターゲットとなる。一つはHIF-1の機能発現に関わる因子で,もう一つはHIF-1そのものである。前者としては,“HIF-1αの核内移行におけるhistone deacetylase(HDAC)の動態”があげられ,すでに組織型・化学療法・治療抵抗性・予後・遺伝子異常などとの関連”を報告してきた。後者は,“HIF-1活性化阻害剤として抗腫瘍薬剤候補にあげられるSilibinin(キク科のマリアアザミ/ミルクシスル)”の卵巣明細胞癌株での検証に取り組み,今後のin vivoでの可能性に道を開いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
HIF-1αの核内移行に関わるHDAC1の免疫組織化学的発現は漿液性癌や類内膜癌で,HDAC7の発現は明細胞癌でそれぞれ予後不良となることが確認されている。実際,HDACを阻害すればHIF機能の抑制を促し抗腫瘍効果が得られることは基礎的実験で確かめてきたが,この一年は共同研究者や研究補助員の往来はすべて抑えており,空間共有による作業が滞ってきた。とりわけ,in vivoでの実験計画が実行に移されていない。また,予定していた海外での学会発表は実行できていない。論文投稿も,他の領域のプロジェクトとの重なりもあって,当初の予定よりも遅れている。主体となるデータが揃っているものに関しては,令和4年度中のpublicationを目指したい。
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今後の研究の推進方策 |
明細胞癌培養株を用いたSilibinin投与実験を行い,蛋白レベルでのHIF-1αの低下を検証した。機序は直接的なHIF-1α遺伝子の抑制に拠るものではなく,HIF-1αの上流にある幾つかの遺伝子を抑制していることにあると考えられた。同様に,HDAC阻害剤(Vorinostat®)投与によってもHIF-1α遺伝子発現には影響を来たさないことを明らかにしてきた。これらの結果を元に,さらに①in vitroおよび②in vivoでの腫瘍縮小効果や毒性について,検証を進めたい。 ①卵巣癌細胞株において,siRNAやCRISPR/Cas9を用いてHIF-1αやHDACの発現を抑制する。発現抑制についてはReal-Time RT-PCRとwestern blottingにより確認し、上流・下流因子を中心に様々な因子の変化をDNA Microarrayによって解析する。 ②卵巣癌細胞株を未処置,HDAC knockdown,HIF-1α knockdownの状態でヌードマウスに皮下ならびに腹腔内に移植し,xenograft 生着動物モデルを作製する。一定の大きさに達した時点で薬剤を投与し,腫瘍縮小効果,投与量試算,毒性試験による有害事象の検索などの検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
意欲的に研究に従事してきた共同研究者の一人が2019年の春に異動となってからは,次第にマンパワー不足が顕在化した。加えて,コロナ禍に陥って往来が妨げられるようになってからは,共同でデータの分析などを行うにもon-siteが困難のため作業効率の低下が否め状況となった。また,動物実験を行うための環境整備も同様に支障が生まれた。このように複数の事情が重なったことが,成果の量を下げる結果となった。 上記8.①に向けた準備に入り,その一部は令和4年度中には成果を得たい。同時に②の具体的なスケジュールを立てて,令和4年度の実施を叶えたい。
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