進行大腸癌50例(血行性転移あり20例、転移なし30例)を選出し、HE染色および弾性線維染色標本で判別できる所見とMMP7・S100A4の免疫組織化学染色(IHC)で検討した。その結果、リンパ節転移が5個以上、非連続性の静脈侵襲像、S100A4のIHCにおける腫瘍細胞の陽性像の3項目のうち1項目でも満たす条件では、感度85%、特異度83%で肝転移を予測できた。さらに腫瘍の脈管内侵入に重要な分子として報告のあるRHO-C、間葉系幹細胞の運命決定に関与するとの報告のあるTAZの分布をIHCにて確認した。RHO-Cは一部の腫瘍細胞に陽性像をみとめ、TAZは腫瘍部における癌間質線維芽細胞および腫瘍近傍の血管内皮細胞の核に広く陽性像をみとめ、一部の腫瘍細胞の核にも陽性像を得た。しかし転移の有無に明確な発現分布の差が見られなかった。 ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)にVEGFAあるいはIL-8を添加し、内皮細胞間の結合性を示すVE-cadherinの蛍光染色での発現低下をみとめた。VEGF-AおよびIL-8により、腫瘍細胞が血管内に入りやすい環境ができる可能性が示唆された。 癌細胞の細胞間接着の低下が脈管内侵入のきっかけになると考え、大腸癌培養細胞株を用いて、腸内に存在する酪酸およびサイトカインであるTNF-alphaを添加し細胞間接着因子の変化をみた。DLD-1は酢酸添加により細胞間接着が減弱し、Western Blotting法(WB法)にて明らかなCD44の低下をみとめ、遊走能が有意に増加することがわかった。WiDrはTNF-alpha添加によりWB法にてCD44の低下をみとめたが、mRNA発現は有意に増加し、ELISA法によって培養液中のCD44分泌が確認された。腫瘍内の環境によってCD44発現に変化を及ぼし、遊走能の増加やCD44細胞外切断を来すことが確認された。
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