研究課題/領域番号 |
18K07003
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
松田 育雄 兵庫医科大学, 医学部, 講師 (50335452)
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研究分担者 |
廣田 誠一 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (50218856)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エプスタイン・バー・ウイルス関連腫瘍 / エプスタイン・バー・ウイルス関連リンパ増殖性疾患 / エプスタイン・バー・ウイルス / 免疫チェックポイント阻害 / PD-L1 / JAK/STAT / マクロファージ |
研究実績の概要 |
エプスタイン・バー・ウイルス関連リンパ増殖性疾患(以下、EBV-LPD)では、エプスタイン・バー・ウイルス(EBV)に感染したリンパ球が異常増殖する。EBV-LPDの新規治療が望まれている。EBV-LPDの多くで免疫チェックポイント分子PD-L1が陽性であることに私は気づいた。そのためEBV-LPDに対しPD-1/PD-L1経路阻害療法が期待される。しかし、抗PD-1抗体を用いる既存のPD-1/PD-L1阻害では自己免疫疾患様の副作用が問題となる。抗PD-1抗体を用いない新規の阻害法として、JAKキナーゼとそれによる転写因子STAT family活性化 (JAK/STAT経路)によるPD-L1発現制御にまず注目した。 EBV-LPDでは、EBV陽性細胞の多くがPD-L1免疫染色陽性のみならず、随伴するマクロファージもPD-L1強陽性であることを概ね確認した。さらに活性型リン酸化STAT(pSTAT)に対する免疫染色にて、EBV-LPDでは、pSTAT1陽性細胞分布がPD-L1陽性細胞の分布と概ね一致することを確認した。 そこでJAK/STAT経路阻害をEBV-LPD治療へ応用できるか、EBV陽性細胞株を用いて確認する計画であった。ところが骨髄増殖性疾患へのJAK1/2阻害薬投与例において、B細胞リンパ腫の発生が報告された (Blood 132, 694 [2018])。JAK1/2阻害薬をEBV-LPD治療に応用し難いと判断し、JAK/STAT経路以外のPD-L1発現制御機構を探索した。 その結果、新規因子XとPD-L1が、EBV陽性細胞で相互排他的に発現することを発見した。すなわちEBV陽性細胞において、新規因子Xの発現がPD-L1の発現と逆相関する可能性があることを見出した。これは新規因子XがEBV-LPDの新たな治療標的候補であることを意味する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
EBV-LPDでは、EBV陽性細胞のみならず、随伴するマクロファージもPD-L1陽性であることを概ね確認した。さらに活性型リン酸化STAT(pSTAT)に対する免疫染色にて、EBV-LPDでは、pSTAT1陽性細胞分布がPD-L1陽性細胞分布と概ね一致することを確認した。 そこでJAK/STAT経路阻害をEBV-LPD治療へ応用できるか、EBV陽性細胞株を用いて確認する計画であった。ところが骨髄増殖性疾患へのJAK1/2阻害薬投与例において、B細胞リンパ腫の発生が報告された (Blood 132, 694 [2018])。JAK1/2阻害薬をEBV-LPD治療に応用し難いと判断し、JAK/STAT経路以外のPD-L1発現制御機構を探索した。 上記の結果のとおり、EBV陽性細胞の多くがPD-L1免疫染色陽性のみならず、随伴するマクロファージもPD-L1強陽性である。網羅的データではマクロファージはPD-L1陽性の代表であり、またマクロファージやCD30陽性細胞など「大きい」細胞はPD-L1陽性率が高い(American Journal of Surgical Pathology 40, 1133 [2016])。EBV-LPD細胞も通常のリンパ球より大きい傾向があり、CD30陽性率が高い。そこで「PD-L1陽性EBV陽性細胞」は、マクロファージやCD30陽性細胞などPD-L1陽性細胞に共通の、JAK/STAT経路以外の性質を用いてPD-L1を発現する可能性がないか、と仮説した。 その結果、EBV陽性細胞で新規因子XとPD-L1が相互排他的に発現することを発見した。すなわちEBV陽性細胞において新規因子Xの発現がPD-L1の発現と逆相関する可能性があることを見出した。以上のように新しい仮説に基づいて、新たなメカニズムを探索したところ、新規の結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
現在症例数を増やして今回のpreliminaryな結果、すなわち「新規因子XとPD-L1が、EBV陽性細胞で相互排他的に発現すること」を確認中である。新規因子Xの発現に関し、EBV-LPDにおける発現自身が新規知見なので、まず基礎データとしてこれらを論文・学会発表する。できれば免疫染色所見のみで早く発表したいが、あとで求められる可能性もあるので、細胞株などを用いたWestern blottingなどによる生化学的詰めも同時進行したい。 確認されれば、EBV陽性細胞における新規因子Xの機能的な意味を、細胞株における新規因子Xの機能阻害・活性化などを通じて検討する。今回の結果では、新規因子Xの発現がPD-L1発現抑制と相関はするが、因果関係にあるかは明らかでない。新規因子Xの機能阻害・活性化を通じて、①EBV陽性細胞のPD-L1発現がどう影響されるか、②EBV陽性細胞の増殖性がどう影響されるかかの2点に関して検証する。 新規因子Xは長期的にはEBV-LPDの新規治療標的候補である。この目標を念頭に置いて、論文作成・学会発表を進めたい。 またこの知見は、単にPD-L1発現と新規因子Xの発現の相関に関わらず、EBV-LPDを含めたB細胞腫瘍一般の未知の性質・治療標的を明らかにする基盤ともなりうる可能性を示唆する、preliminaryなdataを得ている。PD-L1発現制御のみに関わらず、今回の知見をより一般的に大きく発展させる可能性はないか、俯瞰的な視点を忘れず研究を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度EBV-LPDでのPD-L1発現におけるJAK/STAT経路の関与の可能性を確認した。そこでJAK/STAT経路阻害をEBV-LPD治療へ応用できるか、EBV陽性細胞株を用いて確認する計画であった。ところが骨髄増殖性疾患へのJAK1/2阻害薬投与例において、B細胞リンパ腫の発生が報告された (Blood 132, 694 [2018])。JAK1/2阻害薬をEBV-LPD治療に応用し難いと判断し、JAK/STAT経路以外のPD-L1発現制御機構を探索した。この計画変更のため次年度使用額が生じた。 その結果、新規因子XとPD-L1が、EBV陽性細胞で相互排他的に発現することを発見した。すなわちEBV陽性細胞において、新規因子Xの発現がPD-L1の発現と逆相関する可能性があることを見出した。今後症例数を増やしてこのpreliminaryな結果を確認し、まず基礎データとして論文・学会発表する。 確認されれば、EBV陽性細胞における新規因子Xの機能的な意味を、細胞株における新規因子Xの機能阻害・活性化などを通じて検討する。新規因子Xの機能阻害・活性化を通じて、①EBV陽性細胞のPD-L1発現がどう影響されるか、②EBV陽性細胞の増殖性がどう影響されるかかの2点に関して検証する。 新規因子XはEBV-LPDの新たな治療標的候補である。この長期目標を念頭に、論文作成・学会発表を進めたい。
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