本研究は、膵癌、卵巣癌、子宮体癌、乳癌、大腸癌などの家族歴あるいは既往歴を有する症例のうち、遺伝子検査によって原因遺伝子が同定されている症例および臨床的に遺伝性腫瘍と考えられる症例を用いて、①膵および女性生殖器における前癌病変の組織学的特徴の解析、②非遺伝性腫瘍における前癌病変の遺伝子変異との比較、により遺伝性腫瘍の発癌過程を解明することを目的した。具体的には早期癌を研究対象とし、発癌過程における早期の変化を見いだし、遺伝性腫瘍の発癌過程の前癌病変の病理組織像と遺伝子変異の特徴を解明することを目的とした。以下の3つの課題について、研究を行った。③の課題は研究を進めるなかで新たに提起した課題である。 ①遺伝性膵癌の前癌病変:遺伝性早期膵癌(上皮内癌および非浸潤癌)と非遺伝性早期膵癌について背景病変、前癌病変の病理組織学的形態と遺伝子異常(KRAS、CDKN2A、TP53、SMAD4、DUSP6)の比較検討を行った。膵管内乳頭状粘液性腫瘍(IPMN)を背景とする群とIPMNではない群、との比較で、組織像と遺伝子異常が異なることを見いだした。 ②遺伝性婦人科癌の前癌病変:遺伝性婦人科癌をLynch症候群、遺伝性乳癌・卵巣癌症候群(HBOC)、その他、の3つに分類し、子宮内膜、卵管上皮、頸部粘膜、卵巣の背景病変や前癌病変を病理組織学的に検討した。3つの群で、PTEN、K-RAS、TP53、PIK3CA、ARID1A、などの遺伝子変異に有意な差は認められなかった。特に、内膜病変について詳細な解析を行った。 ③遺伝性膵癌と糖尿病の関係:遺伝性膵癌と非遺伝性膵癌で糖尿病の併存に有意な差は認められなかった。
|