研究課題
特発性全身性後天性無汗症(AIGA)の原因を追究する目的で、汗腺暗細胞に分布し、AIGAで発現が低下する温度センサーTRPV4の自己抗体の可能性を検討したが、TRPV4の発現細胞を使用した患者血清と健常者による対比的抗体染色と細胞内カルシウム上昇阻害試験から、TRPV4の自己抗体は否定的と考えられた。一方、交感神経系の伝達物質であるノルエピネフリン合成酵素Dopa-β-hydroxylase(DBH)の抗体で、汗腺組織を含む皮膚の染色を行ったところ、汗腺の暗細胞と肥満細胞に発現を示す健常者、AIGA患者がいることが判明した。肥満細胞はAIGAでしばしば合併するコリン性蕁麻疹の責任細胞と目されているヒスタミンを分泌する細胞であり、また、汗腺暗細胞はAIGAで収縮と脱顆粒を示す標的細胞になっている。従って、AIGAで主役を担っている細胞に分布しているDBHあるいはエピネフリンの変化を検討することが重要と考えられた。そこで、20例のAIGAと19例のnon-AIGAの血清DBHをELISAで比較したところ、AIGAで有意な上昇が得られた。このDBH/エピネフリンは数例のAIGAの汗腺暗細胞で電顕観察された分泌顆粒に相当するものと考えられ、AIGAではしばしばこの高電子密度の顆粒が空胞化しており、脱顆粒を生じているものと予想された。そして、脱顆粒とともに暗細胞の収縮や、接着装置の消失などの暗細胞障害を示唆する変化を示している。DBH/エピネフリンは人の汗腺部位に均一に分布しているわけではないようで、同じ個体でも存在している汗腺としていない汗腺が認められる。また個人差や性差との関連性も予想され、発症頻度や性差(東洋人で男性が圧倒的に多い)との関連がある可能性があるものと思う。
3: やや遅れている
当初、可能性がある分子の自己抗体が否定的と判断され、検討する方向性を変更して汗腺の形態情報と血清の知見から、AIGAの新規血清マーカーを同定しつつある。血清マーカーとしての信頼度を高めるため患者検体を要するが、血清、皮膚が揃った臨床検体を収集するのに時間がかかり、充分量の検体が揃っていない。
精力的に患者検体を複数のルートから収集するとともに、皮膚と血清というセットではないが、過去に収集したどちらか一方の検体も使用して血清マーカーの信頼度を高め、DBHの血清上昇のメカニズムや個人差、性差、個体内分布などを検討していくつもりである。
臨床検体を使用する研究のため、最適な検体収集に遅延が生じ、充分量の検体数が揃わなかったため、その執行のために次年度に回すことになった。
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