研究課題
ヒトの妊娠成立において、胎児母体境界に存在する免疫担当細胞は重要な役割を担う。たとえば、そこに存在するNK細胞は血管新生を促進し胚着床に重要な役割を果たし、制御性T細胞はNK細胞やT細胞が半異物である胎児を拒絶しないように働く。申請者は最近、正常妊娠において胎児母体境界にあたる脱落膜に含まれる免疫担当細胞の1つであるマスト細胞が、ヒト胚を覆うトロホブラストの浸潤・血管増生を促進し、妊娠成立に関わることを報告した。この作用については、マスト細胞の産生するサイトカイン Leukemia inhibitory factor (LIF) が重要な役割を果たしていた。しかしながら、卵管妊娠に代表される異所性妊娠(子宮外妊娠)におけるマスト細胞を含めた免疫担当細胞の役割についての報告は皆無であった。申請者らは、子宮筋腫の手術時に得られた正常卵管に比較して、卵管妊娠の病理組織標本において胎児母体境界周辺のマスト細胞数が減少するとともにLIF mRNAがみられなくなることを観察した。In vitro においてヒトマスト細胞株 LAD2 とヒトトロホブラスト細胞株 HTR-8/SVneo をマトリゲル上で共培養すると HTR-8/SVneo は LAD2 の存在する箇所へ向かって移動・増殖するが、ここに LIF の作用を中和する抗体を投与したところ、HTR-8/SVneo は無秩序に移動・増殖することが分かった。卵管妊娠ではトロホブラストの無秩序な増殖が卵管破裂を引き起こし時に死に至るが、卵管でのマスト細胞の数の減少・LIF 発現の低下がこの病態を引き起こしている可能性が明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
卵管妊娠におけるマスト細胞の数的・質的状況が明らかになり、それを説明しうる in vitro での実験結果も得られたので、研究自体は進展し、ある程度の成果が得られたと判断している。なぜ卵管妊娠でのマスト細胞数が減少し、LIF発現が低下するのかのメカニズムは未解明であり、今後の課題として残ったために「おおむね順調」の評価とした。
卵管妊娠におけるマスト細胞の状況とその状況がもたらす病態はおおむね明らかになったと考えているが、なぜ卵管妊娠ではマスト細胞数がそのようになるかは未解明である。この点を本年度に明らかにし、英文誌に投稿したい。
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