研究課題
膀胱癌においては細胞診および病理組織学的に形態学的診断のみに頼っていることが現状である。microRNA(miRNA)は19-25塩基よりなるnon-coding short RNAで、最近ではmiRNAの発現異常が癌遺伝子や癌抑制遺伝子の発現ネットワークを撹乱し、発癌や進展、転移に深く関与することが明らかとなってきており、miRNAによる種々の遺伝子のエピジェネティックな発現調節機構が注目されている。膀胱癌においてもmiRNAやその標的分子の動態をとらえることで、診断に応用でき、癌細胞の増殖や進展を抑制することが治療戦略や予後改善に応用できる可能性を有する。当該年度においては、膀胱癌組織におけるNACC1およびmiRNAの発現を検討し、さらに浸潤癌、非浸潤癌の形態学的な差異および腫瘍の進展、高異型度および低異型度尿路上皮癌としての表現型に遺伝子変異や蛋白発現が関与するかということを明らかにするために組織、および細胞実験を行なった。膀胱癌組織を用いてNACC1およびmiRNA-331-3pの発現を検討し、さらにNACC1と幹細胞マーカーについては遺伝子変異を検討したところ、浸潤癌および非浸潤癌で蛋白発現と遺伝子変異の両方に差異が認められ、蛋白発現は遺伝子変異によるものであることが明らかとなった。in vitroの実験ではmiRー331-3pだけではなく、幹細胞マーカーの発現に関連したmiRNAも影響していることが示唆された。引き続きNACC1や幹細胞マーカーの機能を腫瘍の浸潤能、異型度に対する役割について分子レベルで解明し、膀胱癌におけるNACC1や幹細胞マーカーおよびそれらに関連するmiRNAの位置付けを明らかにする。
2: おおむね順調に進展している
当該年度における研究状況として、病理組織検体および細胞診より得られた膀胱癌組織を用いて、NACC1および幹細胞マーカーの発現について免疫組織科学的染色および遺伝子変異解析を実施した。その結果、NACC1および幹細胞マーカーなどの発現および遺伝子変異は浸潤癌・非浸潤癌において差異を認めた。このことは、浸潤癌および非浸潤癌の形態学的な差異は、腫瘍の大きさによる進展だけではなく、遺伝子変異に基づくNACC1や幹細胞マーカーの発現が関与していることが考えられた。in vitroの実験ではmiRー331-3pだけではなく、幹細胞マーカーの発現に関連したmiRNAも影響していることが示唆された。これらの成果は当該年度の研究進捗としては予定通りのものと考える。
引き続きできる限り数多くの膀胱癌症例について、形態学的診断と分子診断の併用によりmiRNAと標的分子の発現と形態学が関連するような臨床病理学的有用性を検証する。その具体的方法として、引き続きTUR-Btにて切除された膀胱癌組織のうち病理診断学的に浸潤癌、非浸潤癌を分類し、それぞれ組織からRNAを抽出し、定量的RT-PCR法にて幹細胞マーカーに関連するmiRNAを測定する。浸潤性膀胱癌については低分化型癌、扁平上皮分化癌、腺上皮分化癌および神経内分泌分化癌といった分化の特性に着目して分類し、それぞれについて組織中のmiR-331-3pおよび他のmiRNA, NACC1, 幹細胞マーカーの発現について定量的RT-PCR法、免疫組織化学染色法を用いて定量的に評価する。その結果、種々の分子マーカーの発現パターンが腫瘍の細胞形態から予測できるかどうかを検証する。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Cancer Sci.
巻: 110(10) ページ: 3315-3327
10.1111/cas.14158.