研究課題/領域番号 |
18K07022
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
柴崎 晶彦 岩手医科大学, 医歯薬総合研究所, 助教 (20445109)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | NFE2L2 / PGC1alpha / オートファジー / 浸潤転移機構 |
研究実績の概要 |
悪性黒色腫の浸潤抑制は、治療上の大きな課題である。申請者は、これまでの研究より、恒常活性化型NFE2L2遺伝子を強制発現すると、形質転換メラノサイトの浸潤が抑制されるという結果を得ているが、その機序は不明である。そこで今年度は、活性化NFE2L2が、インテグリン制御に深く関わるPGC1alphaに対して促進的に働き、腫瘍細胞の足場形成に関与することで浸潤制御する可能を検討した。具体的には、PGC1alphaを介したインテグリン制御系におけるNFE2L2の関与、さらに、NFE2L2-PGC1alpha経路を活性化することで浸潤・転移を抑制できるかについて、主に培養細胞を用い検討した。その結果、現段階で以下について明らかとなっている。 (1)ヒト悪性黒色腫細胞株において、抗腫瘍薬であるベムラフェニブはPGC1alphaの発現を誘導することで浸潤を抑制することが知られている。そこで、ベムラフェニブによるPGC1alphaの発現誘導効果に対して、NFE2L2活性化がどのような影響を与えるかを、NFE2L2活性化剤であるスルフォラファン処理により検討した。その結果、ベムラフェニブによるPGC1alpha-mRNAの誘導はNFE2L2活性化によって強く抑制されることが明らかとなった。これは、NFE2L2活性化による浸潤抑制機構として、当初予想したPGC1apha経路以外の経路が関与することを意味する。 (2)悪性黒色腫細胞株において、無刺激状態で、レドックス遺伝子の活性化を伴わない低レベルのNFE2L2活性化がみとめられた。これは、NFE2L2の機能発現には閾値が存在することが示唆する。今後は、NFE2L2活性化による浸潤抑制機構として、新たな機構を検討する(「今後の研究の推進方策等」を参照)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に示した背景をもとに、NFE2L2による浸潤抑制機序として、PGC1alpha-ID2-TCF4経路によるインテグリン生成機構へのNFE2L2の関与について、悪性黒色腫培養細胞株を用い分子生物学的な検討をおこなった。具体的には、NFE2L2活性化剤であるスルフォラファン処理をした細胞を用いて、ウェスタンブロット法と定量PCR法により、タンパク質、mRNAの発現変動量を解析した。その結果、ベムラフェニブによるPGC1alpha-mRNAの誘導はNFE2L2活性化によって50%程度抑制されることが明らかとなった。 また、NFE2L2経路を活性化することで、メラノーマの転移を抑制できるか、培養細胞レベル(ベムラフェニブ耐性メラノーマ細胞株や形質転換メラノサイト細胞株)での基礎的知見を得るこために、悪性黒色腫細胞株にNFE2L2活性化剤であるスルフォラファンを作用させ、マトリゲル法を用い浸潤能を解析した。その結果、活性化型NFE2L2遺伝子を強制発現した場合と同様に、強い浸潤抑制がみとめられた。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究結果から、NFE2L2活性化による浸潤抑制機構として、当初予想したPGC1apha経路以外の経路が関与することが示唆された。また、悪性黒色腫細胞株において、無刺激状態でレドックス遺伝子の活性化を伴わない低レベルのNFE2L2活性化がみとめられることから、NFE2L2の機能発現には閾値が存在し、低発現状態のNFE2L2はレドックス制御以外に機能する可能性も示唆された。近年、NFE2L2はオートファジー経路を活性化することが示されており(Jena KK. et al., EMBO J. 2018)、また、オートファジーの活性化は浸潤抑制につながることが示されている(Mowers EE. et al., Oncogene 2017)。そこで今後は、NFE2L2活性化による浸潤抑制機構として、低発現状態のNFE2L2がオートファジー経路の活性化を介して、浸潤を制御している可能性を検討することを計画している。具体的には、(1)悪性黒色腫細胞株において、オートファジー経路が定常状態でどの程度活性化しているか、また、それが浸潤能にどの程度関係しているかを確認したあとに、(2)定常状態での低レベルNFE2L2をsiRNA法によりノックダウンした場合に、オートファジー経路にどの程度影響を及ぼすかを、それぞれ悪性黒色腫培養細胞株を用いて、ウェスタンブロット法や定量PCR法など生化学的・分子生物学的手法により解析する。これらを本年度の主要な研究計画とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究内容変更を必要とする実験結果が得られたため、1ヶ月ほど実験作業を中断しその精査を行った。それにより使用残額が生じた。その後研究内容を補正し、現在では方針が確定しているため、前年度残額を含め今年度中に全て使用予定である。
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