胃乳頭状腺癌は管状腺癌とともに分化型腺癌に分類されているが、両者は異なる臨床病理学的特徴を示す。したがって、両者は異なる分子生物学的特徴を有する ことが推測されるが、胃癌における分子病理学的解析は管状腺癌を中心に行われており、乳頭状腺癌については充分な検討がなされていない。一般的に癌におけ る分子病理学的異常の差異は癌の生物学的病態と関連することから、癌の分子異常の確立は患者の治療を決定する上でも重要である。乳頭状腺癌の臨床病理学的 および分子病理学的特徴を明らかにするため、臨床病理学的事項の比較を行うとともに、切除標本のパラフィン切片を用いて免疫組織化学染色(粘液形質、細胞 増殖能(Ki-67)、p53、HER2)および各種分子解析(LOH (low of heterogeneity)解析、DNAメチル化解析、MSI (microsatellite instability) 解析)を行い、胃管 状腺癌との比較を行った。乳頭状腺癌では管状腺癌と比較して、低分化型腺癌、粘液癌および微小乳頭状腺癌成分を有する頻度が高くみられたが、両者に分子学 的な差異は明らかではなかった。全症例に対する臨床病理学的因子および分子学的因子に基づいた階層的クラスター解析では3つのサブグループに層別化され、 MSI型癌の頻度が高いサブグループと低いサブグループに分けることができたが、乳頭状腺癌と管状腺癌を層別化することは出来なかった。今回の研究においては乳頭状腺癌と通常型腺癌(管状腺癌)を分子学的に層別化することは困難であったが、MSS (microsatellite stable) 型胃癌は p53とHER2の過剰発現との密接に関連していることが明らかとなった。DNAメチル化は管状腺癌において高MSI状態と関連していることが明らかであった。乳頭状腺癌の一部ではMSIと密接な関連があることが示唆されたが、MSIは乳頭状腺癌の腫瘍発生において、大きな役割を担っていないことが示唆された。
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