研究課題
本研究は、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)の、臨床情報・病理情報・遺伝子検査結果を統合し、FSGSの病因に基づいた一次性、遺伝性、二次性の層別化方法の確立を目指したものである。2018年は、当科におけるFSGSで腎移植を施行した症例のうち、移植後再発をきたし、かつFSGSの病原性を有する遺伝子変異を有さなかった確実な一次性FSGS症例(primary群)と、前述の遺伝子変異を有し、かつ移植後再発をきたさなかった確実な遺伝性FSGS症例(genetic群)と、肥満腎症や低形成腎に起因する二次性FSGS症例(maladaptive群)を抽出し、その自己腎生検における電顕と臨床情報を比較した。電顕所見では一次性FSGSの糸球体上皮細胞の足突起消失割合は概ね80%以上であったが、遺伝性・二次性の症例は80%以下であった。これらは新しい知見であり、2018年アメリカ腎臓学会、2018年日本小児腎臓病学会で発表した。2019年は、電顕での足突起消失割合算出方法が煩雑かつ再現性に乏しいため、より簡便で再現性を有する算出法により、電顕での足突起消失割合を各群で再評価した。その結果、より分かりやすく一次性FSGSとその他のFSGS群を判別できる結果となった。また症例の蓄積により、小児領域の遺伝性FSGSでは成人例とは異なり、ネフローゼ症候群を満たすほどの蛋白尿や低蛋白血症、全身性浮腫を呈する症例が散見され、臨床情報による一次性FSGSとの判別が困難な場合があること、そういった症例でも自己腎生検の電顕では、一次性FSGSと異なり足突起の消失は部分的にとどまっていることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)の、臨床情報・病理情報・遺伝子検査結果を統合し、FSGSの病因に基づいた一次性および二次性の層別化方法の確立を目指した本研究のうち、まず病理情報及び臨床情報に基づいて、移植後再発をきたし、かつFSGSの病原性を有する遺伝子変異を認めなかった確実な一次性FSGS症例群と、前述の遺伝子変異を有し、かつ移植後再発をきたさず確実な遺伝性FSGS、肥満や低形成など原因の明らかな代償性FSGSの比較で、各群の判別および層別化に成功した。これは、(Ⅰ)網羅的遺伝子解析の施行、(Ⅱ)糸球体上皮細胞の細胞数及び足突起形態変化の定量的評価、(Ⅲ)特異的抗体を用いた糸球体上皮細胞の分子学的な変化の蛍光免疫染色による定量的評価、(Ⅳ)移植前の治療に対する臨床情報の比較、によってもたらされる移植後再発に関連する分子の抽出を目指した本研究の(Ⅱ)に該当する。2020年度は上記(Ⅲ)を中心に進められているため概ね順調と言える。
FSGS症例の腎移植における、患者血漿暴露前と暴露1時間後の移植腎生検病理組織を比較することで、腎移植後再発例と非再発例における糸球体上皮細胞構成分子の変化を抽出する。またFSGS症例の網羅的遺伝子検査を施行し、FSGSとして病原性を有する遺伝子変異の有無を検討する。最終的に臨床・病理・遺伝子情報を統合し、一次性および遺伝性、二次性FSGSの層別化を目指す予定である。
本研究におけるFSGS患者の全エクソーム解析の費用、および病理組織免疫蛍光染色における一次および二次抗体購入の費用と免疫蛍光染色に要する諸費用である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件) 学会発表 (2件)
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