研究課題
本研究の目的は、がんの最適医療のために必要な病理学的指標の確立である。がんは日本人の死因第一位であり、臓器別では肺が最も多く、その制圧は医学の大きな課題である。肺癌は、他臓器と比較して様々な性質を持つことが特徴であり、がんの個性に対応する個別化医療が進んでいるが、いまだ十分とはいえない。近年の治療法の目覚ましい進歩、例えばドライバー遺伝子肺がんに対する活性化チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)や免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の開発は、一部の患者に大きな恩恵をもたらしている。治療選択枝は増えているが、実臨床での治療方針決定には依然としてTNM病期分類と病理組織分類が重要である点に異論はない。治療方針の最適化のためには、がんの個性をいかに読み解くか、すなわち遺伝子異常の網羅的情報と臨床病理学的情報とを如何に統合していくべきかが大きな課題である。特にICIでは、より精度の高い治療予測バイオマーカーの探索と最適な検索方法の確立は喫緊の課題である。本研究では、がん治療で最も注目されているICIの予測指標の探索と検出手法の確立を目指し、病理検体を用いたがんの形態および形質・免疫細胞の解析とゲノム、臨床情報との統合解析を行っている。初年度は、ICI治療を受けた肺がんの病理組織標本から、HE染色標本のデジタル画像を作成し、がん細胞の形態学的特徴量を画像解析により抽出し、効果のある群とない群の予測を行ったところ、特徴量の組み合わせにより高率に予測可能なモデルを構築できる可能性が示された。腫瘍浸潤免疫細胞は、殺細胞性Tリンパ球(CD8)の浸潤と治療効果との関連について解析を進めている。形態学的特徴量は、病理医のがん異型度評価、遺伝子変異の状態あるいはPD-L1の発現と相関し、客観的に抽出可能な因子であるため、今後の実臨床に応用可能な新規バイオマーカーとして有望である。
3: やや遅れている
研究計画のうち、デジタル画像解析に関してはおおむね順調に進んでおり、小規模症例の解析を行い、結果を学会報告した。形態学的特徴量は、ICI治療反応性と関連する組み合わせが抽出できた。また、一部はゲノム変異量、PD-L1発現レベルとも関連し、統合情報をリンクする有用な指標である可能性が示唆された。予定していたがん組織の免疫染色、免疫細胞の評価、ゲノム解析は本年度の解析が一部未完了であり、鋭意解析を進めている。結果との統合解析を進めるとともに、最新の臨床情報を収集し、解析対象を蓄積している。
形態学的特徴量の有効性を検証するために、症例数を増やした解析を実施する。免疫細胞の評価は、今後は、制御性Tリンパ球(FOXP3), M2マクロファージ(CD204)、Bリンパ球(CD20)、骨髄球系細胞などを含んで、さらに精密に進め、形態学的特徴量との関連性および治療反応性予測への寄与度を解析する。
本年度の画像解析に時間を要し、予定していた免疫染色、遺伝子解析の一部の費用が次年度へ繰り越しとなった。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)
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