CBP/p300は、ヒストンや転写因子のリシン残基をアセチル化することでクロマチン構造の弛緩や転写活性化に寄与するエピジェネティック制御因子である。我々は、CBP/p300の発現量減少により、EGFR依存性の癌における癌抑制遺伝子として知られるMig6の発現量が減少し、EGFRのリン酸化レベルの亢進が生じる事を明らかにした。本研究では、CBP/p300依存性のアセチル化レベルをインヒビターを用いて変化させることでMig6の発現量を減少させ、EGFRシグナリングを遮断することなく、EGFRシグナリングの強度を人為的かつ適切に制御する方法について検討した。 2022年度は、CBP/p300の酵素活性を抑制するCBP/p300インヒビター存在下で、独自に作出したヒト不死化ケラチノサイトを培養し遺伝子発現の変化を検討した。最も特異性が高く効果的であったインヒビターでは、ヒストンH3の9番目のリシン残基のアセチル化状態には影響が出ないが、CBP/p300のターゲットとして知られる18番目および27番目のリシン残基のアセチル化が消失することを確認した。このインヒビター存在下で培養したケラチノサイトにおいて、各種ケラチンマーカー遺伝子の発現量の変化、Mig6発現量の変化、細胞増殖、カルシウムにより誘導される分化について検討した。対照として、CRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集により作出した、CBP、p300遺伝子破壊ヒトケラチノサイトを用いることで、インヒビターの特異性を検討した。また、ケラチノサイトにおいて、ヒストンH3のそれぞれのリシン残基がもつ役割を明らかにするために、9番目のリシン残基をアセチル化することで知られる、Gcn5 (Kat2a)、Pcaf (Kat2b)遺伝子のノックダウンを行い、各種ケラチンマーカー遺伝子の発現量の変化等を検討して、新たな知見を得た。
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